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限界オタク♂、推しアイドル♀のコスプレをして本人に会いに行く。

36年の半生で、アイドルにお熱だった時期が3回ある。

歴史の始まりは小学5年のとき。当時、一強アイドルだったモーニング娘。にハマったことでアイドルオタクデビューを果たす。「モーニング娘」と句点をつけない者を断じて許さないタイプのオタク。主にアラモアナ(昔、旭川にあった雑貨店)でグッズを買い、駅前のエスタ(昔、旭川にあった商業ビル)で開催された『モーニング娘。展』にも行った。自室の壁という壁にポスターを貼りまくり、訪問者をドン引かせていたことについては反省している。推しは矢口真里。

それから約10年後の大学時代。神7黄金期のAKB48にのめり込む。帯広から札幌まで握手会に行くほどのハマりよう。CDの購入枚数はType-AとType-Bを各1枚までと己を律するタイプのオタク。生まれて初めてファンレターなるものを書いたのもこの頃だった。披露する予定も必要性もまったくないのに、カラオケボックスで友人らと3時間くらい『ヘビーローテーション』の振り付けをひたすら練習するというどうかしているとしか思えない所業をしていたのが懐かしい。推しは大島優子。

このようにアイドルオタクの門を叩いては卒業してきた僕。
そのドルオタ最終学歴は、札幌を拠点に活動していた劇場型エンターテイメントユニットの『ざごしゅ(THE ご主人様)』である。急に知名度が地を這う。

ざごしゅをすごくざっくり説明すると、メイドをモチーフとした複数人のローカルアイドルで、メンバーは実際にメイドカフェなどで働いていた経歴を持つ。ざごしゅを知ったのは、僕が札幌へ行くたびに訪れる特撮バーにメンバーの一人が働いていたからなのだった。特撮とアイドルとがこんな形でつながるとは、人生わからないものである。

推しは、クレイジーイエロー担当の向井しずく。

歌が上手く、一見するとクールビューティーだが、中身は底抜けに明るい。
加えて、担当カラーに「クレイジー」と冠しているように、常軌を逸脱した言動をとるスリリングな一面がある。たとえば、カプセルトイのカプセルを素手で握り壊し、そのせいで怪我をしたにもかかわらず一人でゲラゲラ笑っていたことがあった。イカれた女である。
けれど、根は非常に真面目でファンサービス精神が旺盛。コミュニケーション能力も高く、誰とでも分け隔てなく接するし、空気を読むのも上手い。

僕はその美しさと明るさと誠実さに胸を射抜かれ、気づけば立派な限界オタクと相成った。


さて、推しのことを「常軌を逸脱した言動をとるイカれた女」などと触れ回っておきながら、この僕も大概イカれている。ライブのためだけに往復500kmを日帰り運転したり、某配信アプリに課金しまくってイベントランキング1位のファンだけに贈られるメッセージ動画をゲットしたり、それなりにクレイジーなオタクムーブをかましていた。

とりわけ本当に狂っていたとしか思えない行動が、推しのコスプレである。

もう一度言う。推し女性アイドルのコスプレである。

もしここで気分の悪くなった人はすぐに画面を閉じ、横になって休んだり医療機関を受診したりしてほしい。無理をしてはいけない。余力がある人だけ読み進めていただけたら幸いである。


きっかけは、しずくちゃんの誕生日イベントだった。そのイベントに僕はしずく推し筆頭として絶対に行かなければならなかった。推しの誕生日イベントに行かないオタクなんて、米のないおにぎりも同然である。

ただ、せっかく会いに行く、ひいてはこの世に生まれ出でてくれたことを盛大に感謝し、そして祝福するのだから、何か喜んでもらえることがしたい。彼女はその辺に転がっている石を差し出しても狂喜乱舞してくれる人ではあるが、そういうのじゃなくて、もっとこうなんか、ほかのオタクがやらないような独自性の高いプレゼントというか、サプライズ的な……


しずくちゃんと同じような格好をするのはどうだろうか?


はい、入院です。お医者さんに診てもらいましょう。頭を。今すぐに。

だがこの猪突猛進オタクに「目を覚ませ!」と肩を揺らしてくれる真っ当な人間は当時いなかった。

推しのコスプレをする。このトンデモな発想が降臨してきたときには、すでにスターターピストルが高らかな破裂音を響かせていたのかもしれない。


というわけで、推しアイドル♀のコスプレをすることになった限界オタク♂の衣装集めがスタートした。もう誰にも止められない。

まず、コスプレ対象となるしずくちゃんの衣装をお見せしよう。

持って帰るときに割れないか心配しすぎた形状のアクリルキーホルダー。

全体的に黒が多めで、差し色に黄色と白を用いたコーディネートである。
黒い半袖ワイシャツ。黄色のネクタイ。黄色と黒のチェック柄スカート。両腕には黒い袖口とアクセサリー。白い靴下。黒い厚底ローファー。

黒いワイシャツは、長袖を腕まくりして着用することに。
黄色のネクタイはないからAmazonで購入。
黒い袖口は当時リストバンドと勘違いしていたので、黒いリストバンドを2個Amazonで購入。アクセサリーもそれっぽいやつを購入。
白い靴下も意外と持ってなかったのでAmazonで購入。
黒いローファーはABCマートでそれっぽいのを探して購入。

買ってから5年経つがコスプレ以後ほぼ履いてない封印されし黒ローファー。

当時、ほかに趣味という趣味がなかったこともあり、経済的な余裕はけっこうあった。何より、趣味を聞かれたら「推しへの課金」と答えるほどには限界オタクしていた。だからこそなんでも金で解決しようとする脳筋成金アクションが起こせるのである。

さあ、問題の黄色と黒のチェック柄スカートだ。
ここで急に冷静さを取り戻す。さすがにスカートを履くのは精神的にきつい。それなりに細身だったのでなかなかの美脚と自負してはいたが、下肢が濃いので見苦しさがハンパない。たとえ綺麗に剃ったとしても、周囲の正常な人たちに怪訝な顔をされ、イベント会場全体の雰囲気を微妙にする気しかしないぞ。男がスカートを履いたって何も問題はないが、この先もう二度と履かないであろうスカートにお金と羞恥心を捧げる諸々の余裕はなかった。
結果、妥協案として似たチェック柄のズボンを購入。


これですべてのパーツがそろった。

完成した姿がこちら。


なんだその左手のポーズは。

はい、通報です。お巡りさんこの人です。調べによりますと、男は滞在していたホテルの一室でこのような写真を撮影しており、「推しに喜んでもらいたくてやった」と容疑を認めています。

とはいえ、だ。コスプレしていると理解した上で見るとまごうことなきヤバい奴だが、先入観なしで見るとただの派手趣味な兄ちゃんに見えなくも……ないかな……?

兎にも角にも賽は投げられた。しずくちゃん驚くかなあ、喜んでくれるかなあ、とワクワクドキドキしながらイベント会場へ向かう。


誕生日イベントはほとんどがライブで、しずくちゃんと話ができたのはライブ後の物販タイムだった。
さすが本日の主役というだけあり、しずくちゃんの前には長蛇の列が。こういうときに一番前を取れるかどうかは運なので、大人しく最後尾に並びながら順番を待つ。

自分の番が来た。


「ギャアアアアアアア!!!!!」


しずくちゃんの絶叫がライブハウスにこだまする。断っておくが、悲鳴ではない。歓喜の叫びである。
専門学校を卒業したガチの歌手なので声量がすごい。コロナ禍の当時、彼女がホラーゲーム配信をやっていたことがあったのだが、そのときもすごかった。あまりの絶叫っぷりに、目覚ましにぴったりだと思って当時の配信音源をアラーム音にしたこともある。一瞬で飛び起きるほど効果は絶大だったものの、心臓に悪すぎるのでおすすめはしない。

閑話休題、とにかくしずくちゃんはめちゃくちゃ喜んでくれた。飛び跳ねながら叫んだ「めちゃくちゃうれしい!!!!!」という言葉には、誇張なくエクスクラメーションマークが5個ついていたと思う。

ところでしずくちゃんの衣装だが、ライブ中に何度か衣装チェンジがあり、物販タイムのときは淡いイエローのドレスをお召しになっていた。そのため、おそろいコーデのチェキを撮ることは叶わず。それでも絶叫するほど喜んでくれたなら、オタク冥利に尽きるというものだ。

でも、せっかくだから、おそろいで撮りたいよなあ……


物販タイムの終了間際、ダメ元で聞いてみる。

「おそろいの衣装でチェキ撮りたいんだけど……」

「もちろん!!!!! ソッコーで着替えてくるから待ってて!!!!!」

OKだった。こういうノリのよさも彼女の魅力である。ちゅき。


こうして撮ったチェキがこちら。


これはしずくのコスプレ!!!

自分で言うのもなんだが、こうして本人と並んでみるとなかなかいい感じのコスプレではないだろうか。ドラクエⅢに出てくる、同職業で見た目の違うキャラクター同士みたいで。コロナ禍だったのでマスクをはずせなかったのは残念だったが、素敵な記念になったと思う。

ちなみに、しずくちゃんがこの後「私もこのチェキ欲しい!!!!! 自腹で払うからもう1枚撮ろ!!!!!」と言ってくれたので、おそろいコーデチェキは2枚ある。1枚は僕が、もう1枚は彼女が持っている。



このチェキを撮った翌年、ざごしゅは全員卒業し、しずくちゃんはアイドルではなくなった。
それでも歌手やコスプレイヤーとして活動はしているし、ライブバーやコンセプトカフェなどで働いてもいるので、しょっちゅう会いに行っていた。僕が仕事を辞めて実家に戻ってからは、なかなか会いには行けなくなったが、SNSなどで交流は続いている。

彼女に初めて出会った12月21日は、僕にとって特別な日だ。今でも毎年その日になると、ケーキを買ってお祝いしている(一度だけ、コンセプトカフェの出勤日と重なったので一緒にお祝いしたことがある)。


自分でも不思議なくらい、向井しずく沼にずぶずぶだった。
それは、日々の激務にメンタルをやられていた頃、彼女の歌や人柄に救われたからだと思う。ステージに立ち全力で歌を届けようとするその姿に、何度も元気をもらった。

ざごしゅのとある楽曲に、しずくちゃんの印象的なソロパートがある。
「我慢することは強さだけれど 我慢しないことは弱さじゃない」
彼女の歌うこのフレーズは、歌詞もさることながら繊細かつ芯のある歌い方も相まって、荒んだ心に染み入った。繰り返し聞いては涙した。

限界オタクゆえにたくさん迷惑や心配もかけたと思う。それでも冷たい態度をとられたことは一度もなく、会うたびに「いつもありがとう!」「君がTO(トップオタク)だよ!」などと言ってくれた。今でも毎年4月1日0時0分には「誕生日おめでとう!」と誰よりも先にメッセージをくれる。


推し活は、ただの自己満足かもしれない。コスプレだってそう、ライブに行くのだってそう、誰のためでもなく自分のためにやっている。

けれど、「推しに喜んでほしい」という前提がないと、この感情は成立しない。自己満足は承知の上で、相手の喜ぶ顔が見たい。やってることはクレイジーでも、その思いは純粋なもののように見える。

それに、推しだって人間だ。うれしいことがあったらもっとがんばろうと思うときだってあるはず。応援してくれたらもっと期待に応えたいと思うときだってあるはず。

そうして相互に高め合っていくことで、推しとオタクとの絆がつくられていくのではないだろうか。


もうすぐ、しずくちゃんの誕生日。彼女の喜ぶ姿をまた見たい僕は、今日もいそいそとAmazonのほしい物リストを眺めるのであった。


(おしまい)

※本作品は、向井しずくさんの許可をいただいて公開・応募しています。

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