オシャレ作業靴の罠
長ぐつに亀裂が入ってしまった。
そうだよなぁ、この冬は毎日のようにバイトで除雪をしていたから、損傷があってもおかしくない。2、3cm程度の小さな傷だが、雨降り時には左足だけびっちゃびちゃになってしまう。
現在のバイトは草刈なので、長ぐつでなくとも新しい作業用シューズが必要だ。ようし、今日は休日だから買いに行こう。
僕は愛車を駆り、最寄りのプロノへ向かった。
インテリアショップといいホームセンターといい作業用品店といい、この手の商業施設はどうしてこうワクワクするのだろうか。ウインドウショッピングが好きすぎて札幌駅内を5時間徘徊した実績のある僕だからか、買いもしないのに見てしまう。いや、今日はちゃんと買いたいものがあって来たんだけれど、「せっかくだしほかのアイテムもチェケラッチョしとくか」とウインドウショッピンガーの血が騒ぐ。というわけで、軽く1時間はウロウロしていた。
さて、目的の作業靴をそろそろファイナルアンサーしないと。
ノーマルな長ぐつでも構わんのだが、防水性の安全靴、スパイク付の作業靴、ごつくて丈夫そうなワークブーツ、いっぱいあって困っちゃうな。
いろいろ履いて試してみる。うん、これはなかなか。あ、こっちも悪くない。
そんな中、とある安全靴が目に留まった。足首まで覆うハイカットのシューズで、防水性も申し分ない。カーキ&ブラックにビビッドな蛍光オレンジが映える、絶妙なカラーリング。オシャレ作業靴とでも呼ぶのだろうか。かっちょいい。機能重視と言えども、やっぱりビジュアルも大事よね。
こいつも履いてみようっと。うん、いーんじゃない?
このオシャレ作業靴が最高にオシャレなポイントは、固定方法だ。
スニーカーにあるようなヒモやマジックテープではない。シュータン部分に付いているダイヤルを回すことでワイヤーが締まっていくというシステムになっている。オシャレだ。オシャレを超越してもはやロックだ。ヒモがほどけたり、マジックテープのギャチョギャチョという不快音を聞いたりすることがないので、実に快適な草刈ライフを過ごせるに違いない。値段も余裕で予算内だ。よし、こいつを買おう。一旦、自分の靴に履き替えて……
これ、どうやって緩めるんだろう?
ダイヤルを適当にガチャガチャして履いたので、緩め方がわからない。でもこういうのって、大体このダイヤルを押せば……
押ささらない(北海道弁)。
ダイヤルを押しても、ウンともスンとも言わない。ダイヤルを逆回転してみても、からからと空回りするだけだ。断腸の思いで店員さんに助けを乞うかと思ったが、右靴と左靴はしっかりタグで結ばれている。つまり歩けない。痛恨のミスだ。先ほど「この作業靴はオシャレ……いや、ロックだ」みたいなことをつぶやいたが、それは間違いだった。作業靴じゃなくて、僕の両足が絶賛ロック中だ。
しかし、このまま店員さんかほかのお客さんに気づかれれば、恥辱をさらし、嘲笑の的となり、「ダイヤル式シューズの扱い方がわからない男」の十字架を背負って生きなければならなくなる。そんなことにはなりたくない。
冷静を装いながら、考え得るすべての手段を試す。すると、ダイヤルは「カチッ」という音を鳴らし、ワイヤーは弛緩した。ダイヤルを押すんじゃなくて、引くことで解除する仕組みだった。
なんとかオシャレ作業靴の罠をくぐり抜けた僕は、一皮むけた男になってレジに向かった。
ただ、この話のオチは、休日明けに新型コロナウイルス感染症となり、このオシャレ作業靴のお披露目が一週間先延ばしになってしまったことである。
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