「リスクコラム中井」始めます@#15生きた教科書を読む
中井といいます。リスクコラムニストとして、主にトラブルや不祥事に関する文章を書き始めます(大きく脱線して韓流ドラマや猫の話も書きたいと思っています)。まずは自己紹介から。よろしくお願いします。
<1>原点「会社が消える」
「会社が消える」というタイトルで同時進行ルポを始めたのは、社会部記者だった1997年秋です。巨額の簿外債務などが積み重なって自主廃業に追い込まれた山一証券。その社長は記者会見で、「私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから」と泣きながら謝罪しました。
取材班を立ち上げ、社員と家族から話を聞き取りました。取材する私たちも会社員です。身につまされながら記事にまとめ、朝刊に載せる作業を翌年まで続けました。
連載をまとめた本が手元にあります。忘れられないシーンばかりです。44歳になる妻は、長い髪をかきあげて円形脱毛症の地肌を見せてくれました。「社員がだらしないからよ」と家族になじられる部付部長がいました。ある経理マンは廃業決定に伴う業務に追い立てられた末に突然死しました。通夜のあとで同僚記者はその義父から、「あんたたちも仕事は大変だろうけど、死ぬなよ。死んだらしようがないぞ」と声をかけられました。そのありがたい心遣いのシーンも、原稿に盛り込ませてもらいました。
トラブルが致命傷になって、消える会社がいくつもあります。犠牲になるのは、社員とその家族です。どうすれば不幸な失敗を防げるのか。そんなことを考え始める原点になったのが、この連載企画でした。
<2>2000年代「コンプラの時代」
コンプライアンスの時代がやってきたのは、2000年代に入ってからです。裏付けるデータがあります。新聞社にいたころデータベースで「コンプライアンス」という言葉を調べたのですが、紙面での初出は1987年で、90年代は年7件程度でした。2000年から毎年二桁の使用頻度となり、公益通報者保護法が成立し、自動車メーカーの欠陥隠しが社会問題化した2004年以降は年間100件を越え、倍々ゲームのような形で記事に使われました。(☞欄外①参照)
あの1997年は、大手スーパーや銀行なども相次いで経営破綻した一年でした。騒然とする編集局で記事をまとめながら、「日本はどうなっちまうんだろう」と船酔いしたような気分が続きました。
振り返ってみると、その後も続いた大手企業の行き詰まりを教訓として、コンプライアンスの時代が到来し、まずは法令をキチンと守ろうよと企業が身構え始めたのだと思います。30年近く前に私たちが取材したのは、コンプラ前夜の痛みに襲われる人たちだったような気がします。
<3>法令順守の迷宮を歩く
データベース検索でも触れた2004年、望んだわけではないのですが、社の広報担当者を命じられました。その後、編集局との間を行ったり来たりしながら、法務部や内部監査室に籍を置きます。社会で急速に広まる法令順守の迷宮に、私も深く入り込んでいきました。
例えば、広報担当者は週刊誌やテレビ局の記者さんから厳しい追及を受ける身です。社会部記者としてのフィールドはもともと事件や裁判で、1990年代はかなりの数の企業不祥事を取材していただけに、攻守双方の現場を知ることになりました。
言えること、言えないこと、言わなければいけないこと、言ってはいけないこと。頭の中でその四つに情報を整理して、一人で取材対応します。会社が消えるような不祥事はありませんでしたが、やはりストレスは溜まり、自分の歯ぎしりで目が覚める夜も経験しました。
法務や内部監査の仕事は、社内の駆け込み寺、アドバイザーみたいなものだと思っていますが、周りから見れば講釈ばかり垂れるポジションに映るかもしれません。キャリアの最後を関連ビル管理会社の最前線で過ごしたのは、自分でも幸いだったと思います。講釈だけでは飯が食えない現実と、8年間にわたってガチンコ勝負してきました。
<4>「マニュアル・ジレンマ」と「ダンジョンマップ」
リスク管理をやる人間は慎重さを身につけます。私の場合は生来の気の弱さもあってか、いつも最悪の状態を想定してしまいます。どの職場でも、「悪運だけは強いから大丈夫。みんな安心して」とラッパを吹き通しましたが、さっきも書いたように、クヨクヨ考えて眠れない夜をいくつも過ごす羽目になるわけです。
そんなヨレヨレ親父ですが、会社が突然消えるような悲劇をなくすために、書くことで何かできないかと考えました。特にいま、著名企業や巨大組織でさえトラブルや不祥事が止まらない(☞欄外②参照)背景に、コンプラ社会の制度疲労が隠れているような気がしています。まずは、複雑怪奇なリスク管理やコンプライアンス理論がなかなか現場まで浸透しない「マニュアル・ジレンマ」を打破できないかと思います。リスクの森やコンプラの迷路を安全に歩くための「ダンジョンマップ」みたいな、分かりやすいリスクコラムを目指してみます。特に、若い人たちに読んでもらえたら嬉しいです。
ガサツな実務屋が書く文章なので、論理的に間違っているんじゃないかとか、わかりにくいねとかいうご意見があるかもしれません。異論反論も含めて、ぜひ指摘してください。同じような苦労をされてきた皆さんの体験談もお聞きしたいです。現場の知恵をたくさん盛り込んで、より良い迷宮地図を作れないかと夢見ています。
まずは、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。また、頑張ります。 <了>
【欄外①】同じような分析もあります。日経新聞2025年03月14日朝刊の伊藤昌亮成蹊大教授の記事によると、読売新聞記事データベースで調べたコンプライアンス関連記事は2001年~2007年に急増し、概念がひととおり普及したことから2010年にかけて減少しているといいます。
【欄外②】企業の不祥事情報について検索すると、フジ・メディア・ホールディングスと産経新聞社が株主になっている株式会社エフシージー総合研究所のHP(フジサンケイ危機管理研究室)が見つかります。そこでは、「企業事件・不祥事リスト」として年ごとの案件がまとめてあります。https://www.fcg-r.co.jp/research/incident.html
*2026年1月5日に投稿したものの、2月1日に誤って削除したため、記事を復元しました。目次も追加してあります。
