真夜中のギター|掌編小説《百人百色》
百人一首の和歌をもとにお話を作るという、こちらの素敵な企画に参加しています┏○ ペコリ
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かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける(新古今集 冬 620)中納言家持
意味は、この記事の最後で。

夏が終わり、君はこの街を去った。
秋が来て、冬が来て、春になっても、
君の場所は埋まらなかった。
あれから何度目の夏だろう。
僕は上京して、小さなデザイン事務所に勤めていた。
デザイン事務所といっても3人しかいないこの会社は、デザイン職とは名ばかりでほとんど事務や雑用と兼用だ。すでに契約している仕事をただこなすだけの、淡々とした日々。残業は当たり前、手当はろくに出ない。
僕は今日も終電に乗り、コンビニでビールを買って、公園のベンチに腰を下ろす。お決まりのパターン。プルタブの音だけがやたら響く。
ふと、どこからかギターの音が聴こえた。
公園の向こう端に、ギターを抱えた女性が座っている。
おそらく始めたばかりなのだろう、曲にすらなっていない。たどたどしく鳴らされる音の群れが街灯にゆれ、まるで波が揺らいでいるかのように優しく闇に溶けていった。
すると葉の擦れる音は砂浜を歩く音となり、風の撫でる感触はやさしい潮風となった。嬉しい時も悲しい時もともに過ごした、生まれ育ったあの海は、きっと今も変わらず揺らいでいるのだろう。たとえどんな高波に呑まれようとも、僕らの思い出とともに。
僕はビールを飲み干すと立ち上がった。ふと女性と目が合う。彼女が軽く会釈をしたので、僕もそれに倣う。そういえば、アパートの下の階からギターのような音が聞こえたことがあるかもしれないな。
僕はぽつぽつと響いてくる音に歩調を合わせながら、アパートの階段を登った。

父の転勤で住み慣れた土地から東京に引っ越して、7年が経つ。大好きだった海、置いてきた思い出。それは一度も開かれることなく、都内の出版社に就職した。
女性だからと料理雑誌の担当を任されたものの、やることはほとんど雑用。取材に必要な道具や書類の整理、下請け会社と原稿をやり取りをし、その都度チェックをして、戻して、ようやく校了したら印刷所へのデータ入稿。記事を任せてもらえる日なんて、一体いつやってくるのだろうか。
遅い時間に帰宅なんていつものこと。
最近始めたギターをアパートで鳴らすには忍びなく、仕事終わりの深夜に公園で弾くようになった。弾くといっても、まだろくにコードさえ押さえられない。
ポロポロ鳴らしていると人影が見えた。ビクッとして振り向くと、同じアパートの住人のようだ。向こう端のベンチに座る彼の顔を初めてマジマジと見る。
……あれ?
あれは、もしかして…
間違いない。幼い頃から同じ海で育ってきた彼だ。大人になったとはいえ、あの頃の面影が垣間見える。
じっと見てると、彼と目が合う。反射的に会釈をし、顔を隠す。向こうは気づいてないようだ。彼はビールを飲むとアパートに帰っていった。
ー彼は憶えているだろうか。
二人で行ったあの海のことを。
一緒に食べた思い出の海砂糖は、もう甘くなっただろうか。
視線を上げると、星たちが白く瞬いている。
そういえば今日は七夕だ。今頃空の上ではカササギたちが、天の川に橋を作って織姫と彦星を会わせているだろうか。あの海で見た星がここにもちゃんとあることに、今頃気づいた。私たちはどこにいたって、同じように輝けるはずなんだ。
私はベンチから立ち上がると、弾いていた曲を口ずさみながら部屋に戻った。明日、声を掛けてみよう。きみはいったいどんな顔をするのだろうか。

ストーリーが久しぶりでなかなか書けなくて、
さらりとした感じになってしまいました(。-人-。)
このお話の続きとして書きました。
↓
あ、読みに行かなくて大丈夫です。
海砂糖はこの時のお題で造語です。
※和歌の意味
七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、かささぎが翼を連ねて渡したという橋ーー天の川にちらばる霜のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。
かささぎは、カラス科の白と黒の鳥らしいです。
「かささぎ」を短歌に用いるだけで、七夕で出会う織姫と彦星を連想させることになるって、なんだかロマンチックですね🥹

※追記
カンナさんにこのお話のイラストを描いて頂きました💓センス抜群の素敵なイラストをありがとうございます(。-人-。)✨
