障碍者のキャリア形成ってなに?
衝撃!今までの働き方ができなくなった瞬間
ある日、目が覚めたら病院のベッドの上にいた。
「えっ!」なんで? ベッドに固定されてるし、体も思うように動かない。うそでしょ。ついにAIが自我を持って人類に戦いを挑んだのか? 真面目にそう考えていた。
映画「ターミネーター」のサラ・コナーのように、身体に固定された点滴のチューブの針を抜いてベッドの柵を乗り越え、ベッドから抜け出し、2、3歩歩いて——体の半分が鉛のように重いことに気づいた。そして意識が遠のいて、崩れるように倒れた。
断片的な記憶だが、それが最初だったように思う。だが定かではない。そこからは、回復期病院に移るまで断片的な記憶が続いた。ただ、ところどころは鮮明に覚えている。
回復期病院では、自分の置かれた状況に向き合う時間が存分にとれた。
「脳出血」——脳卒中ともいう。血管が破れたのだ。
思い当たる節は山ほどある。頭痛も前からあった。生活も乱れに乱れていた。タバコ大好き小池さんであった。まぁ、自業自得なのだが、それより困った。私はお店を営んでいたのだ。
どうなった? それより復職できるのか?
リハビリは毎日何時間もしている。一向に体の左半分、特に左手はまったく動かない。お店は飲食店で、私の料理が自慢の店である。右手だけで料理できるツールを調べたり、いろいろ考えた。
私は、いい意味でも悪い意味でも職人であった。技術があり、五体満足であればどこでも生きていける。じゃあ、身体に障害があり思うように動かなかったら……詰んだ。料理以外何もない。
長いリハビリ生活で、どうやら現代医学では元のようには回復することがほぼ不可能であることを思い知らされた。
どうやって生きていったらいい?
Webデザイナーの隣人
入院生活は、意外と楽しかった。前から入院生活に少し憧れもあった。病院食もヘルシーだし、看護師さんも女性が多いし、基本優しい。患者さんもさまざまなバックグラウンドを持っていて勉強になる。
どうやら私は隣人に恵まれていたらしく、変な人とは同室にならなかった。だが揉め事はよく耳にしていたので、いろんな患者さんがいたにはいたみたいだ。私は平和に過ごしていた。読書も好きなのでたくさん読んだ。天国だが……少し退屈だ。
ある日、リハビリを終え病室に戻ると、向かいのベッドに新しい患者さんがいた。私に似たもう少し年上の男性だが、奥さんが美人だ。正直、羨ましい。病状も私に似ていて脳卒中。やはり左半身不随であった。
健常な時なら、自分に似た人の奥さんが美人であったら嫉妬や敗北感からちょっとよそよそしくなる私なのだが、入院生活を満喫していたのでその患者さんには自然体で接することができていた。
どうやらWebデザイナーらしい。病室にPCを持ち込めないか交渉中のようだった。
そういう働き方もあるのか。
持ち込んだPCで彼は仕事をしていたのだ。私はタブレットで調べ物をするのが関の山だが、彼は片手とはいえ、入院中も入院前と同じ仕事ができていた。
ここでもやはり嫉妬ではなく、気づくことができた。PCの仕事なら退院後も飯が食えるのではないか?
古くからの友人に「一緒に働かないか」と言われ、私はPC使いにジョブチェンジすることを決意したのであった。
楽園と貧困の島
そこからOfficeソフト習得、Adobeソフト習得、HP制作などを、持ち前の諦めの悪さで勉強し続けた。決意から3年の時を経て、古くからの友人の住む南の島へ流れ着いた。
これで少しは友人の役に立てるだろう。だが甘かった。仕事がない。
友人は小さいながら会社を営んでいるのだが、最小限の仕事しかなかった。いやいや、食っていけないって……。毎日暖かくて幸せでも、畑も耕せないし、トイレに行ってもガソリンは出ない。健常者にとっては楽園でも、身体障害者はどうやって食っていくの?
そんな折、少ないながら資産があった私は投資で悪手を打った。やばいって。死んじゃうよ。
私は泣く泣く楽園を後にしたのだった。愛しいあの娘に別れも言えず……そう、ロマンスもあったのに。
私は病んだ。この時ばかりは、いくらポジティブでタダでは転ばないタイプの私でも。くそ……もとい、うんこちゃんみたいな人生やな。えっ? うんこに「ちゃん」はいらんて? 知らんけど。
そして、でかい狛犬がシンボルの南のあの島が本土に復帰して52年目の節目に、私も本土に復帰した。
統計とChatGPTと私
これからの時代はAIでしょ。
私が就労移行支援事業所を利用するのは2回目になる。前回はよくわからないまま、障がい者の職業訓練校に入るまでの期間、Officeソフトや事務作業を習いに通っていた。勧められるがままに入所したので、放課後はその後の訓練校のためにHTMLやAdobeの自習をしていた。
そういえば昔から、部活でも自主練だけは人より頑張っていたっけ……リハビリも含めて。なぜかというと、部活では人より弱かったし、障害も比較的重い方だったからだ。ただ、飽きずに反復練習ができる気質はあった。
そんな私の本土復帰後、どうやらプログラミングをしてくれるAIが日本に来るらしい。その情報をきっかけに、私は今もお世話になっている「NPO法人発達障碍者を支援する会」が運営する就労移行支援事業所「チームシャイニー」の門を叩いた。
AIの勉強ができる就労移行支援事業所は、私が調べた中ではここともう一つ。どちらもAIエンジニアかデータサイエンティストが目指せるようだ。私はほぼ直感と、お弁当の美味しそうなことと、書籍の多さでこの事業所に決めた。
そんな私だが、周りのスタッフや利用者がChatGPT——チャッピーと浮かれている時、統計の勉強だけをしていた。そう、余裕がなかったのだ。
初めての統計。言葉では「統計的に」とか言っていても、高校のときは朝から晩まで部活ばかり。本好きが幸いしてか現代文と日本史以外は悲惨な成績であった。特に数学は強力な催眠薬だと思っていた。
だが「チームシャイニー」では、周りのみんなが理系である。数学に長けているスタッフや利用者ばかりだった。私も何かに注力しなくては土俵にすら立てないと思った。
そんな折、ついに私もChatGPTの洗礼を受けたのだ。正直、初期の生成AIは私には使いこなせず、統計の勉強に注力していた私にはまだ早かった。
だが、同法人が運営する「シャイニーラボ」に就職が決まり、実務が始まってからは生成AIの恩恵を感じられるようになった。生成AIの実務での活用の幅は限りない。今では、生成AIがない世界はあり得ないとさえ思える。
そして気づいた。すべてが「統計とデータ」の世界なのだ。 膨大なデータを統計処理し、どうやって出力するか。突き詰めれば、これがすべてなのだ。
実務では、マネジメントやゼミの資料作り、ゼミのファシリテーター、法人営業、潜在顧客への広報活動を主にしている。つまり「何でも屋」なのであるが、あらゆる場面で生成AIの恩恵を受けている。
片麻痺で普通の人の半分の成果しか出せないはずの私が、生成AIのおかげで3倍——つまり 0.5 × 3 = 1.5人分 の成果が出せているのではないか。もちろん理系で優秀な他のスタッフはもっと成果を出しているが、私には持ち前の根気がある。飲食店経営で培った接客力や数字への強さ、学生時代の生徒会や部活の部長経験からくる段取りの良さ。それらがプラスされて、マネジメントや営業での気配りは人より得意だ。
就労移行支援事業所とは?——これから就職を目指す方へ
ここで、就労移行支援事業所というサービスを知らない読者のために簡単に説明しよう。
「働きたいけれど、自信がない」「ブランクがあって不安」「自分に合う仕事がわからない」 そんな方をサポートするのが就労移行支援事業所だ。
就労移行支援とは、 障がいや難病のある方が一般企業への就職を目指すための福祉サービスである。制度の根拠は障害者総合支援法で、国の制度として位置づけられており、全国に事業所がある。
対象となる方
18歳以上65歳未満で、一般企業への就職を目指している方。身体障害・知的障害・精神障害・発達障害・難病などのある方が対象だ。障害者手帳がなくても、医師の診断書などで利用できる場合がある(自治体の判断による)。
利用できる期間
原則最長2年間。その間に「就職準備 → 就職 → 定着」を目指す。
どんなことをするの?
事業所によって特色はあるが、主に以下のような支援を行っている。
① 職業訓練: パソコンスキル(Word・Excelなど)、軽作業訓練、ビジネスマナーなど。
② 就職活動サポート: 履歴書・職務経歴書の作成、面接練習、求人紹介。
③ 生活面のサポート: 生活リズムの安定、体調管理のアドバイス、コミュニケーション練習。
④ 就職後の定着支援: 職場との調整、悩み相談、働き続けるためのフォロー。
「就職させて終わり」ではなく、働き続けることまでサポートするのが特徴だ。
利用料金
前年度の世帯収入によって自己負担額が決まるが、多くの方は自己負担0円で利用している(収入がある場合でも上限がある)。
就労系サービスの種類
サービス 目的 就労移行支援 一般企業への就職を目指す 就労継続支援A型 雇用契約を結んで働く 就労継続支援B型 雇用契約なしで働く
「まずは準備から始めたい」という方には、就労移行支援が向いている。
利用までの流れ
事業所の見学・体験 → 市区町村へ申請 → 受給者証の発行 → 利用開始。複数の事業所を見学して、自分に合う場所を選ぶことが大切だ。
就労移行支援は、「働きたい」という気持ちを形にするための場所である。不安があっても大丈夫。一人で頑張らなくてもいい仕組みがある。もし今、働くことに迷いや不安を感じているなら、まずは見学から始めてみるのも一つの選択だ。
今、つらいあなたへ
私のように障害を負っても、人や生まれてくる時代や環境に恵まれて何とか踏ん張れる人もいるだろう。だが、そうじゃない人ももちろんいる。
決して無理はしないでほしい。頑張りすぎたから今が大変な人や、生まれながらに人より大変な人もいるだろう。
できる範囲で、自分なりの小さな一歩。それがあなただけの未来への挑戦なのだから。
このリアルな就労支援の裏側を、エンタメ小説として昇華させたのがこちらの作品です👇
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