その直前まで見つめていたもの 【介護の詩】
その時のフライパンには、
何を作ろうとしていたのかも分からない
焦げた野菜が残っていた。
妻はその時を迎える直前まで、
子どもの食事を用意していた。
火を止めて、
シャワーを浴びようとした
──その直後。
脳の血管が破裂した妻は、
二度と元の身体に戻ることはなかった。
それでも気丈な妻は、
私に最後の叫びをあげる。
『お風呂の入り方が分からないー』
あのフライパンに残された野菜を思い出すたび。
もしかしたら、
その時には、もう──
戻れなかったのかもしれない。
それまで、
体をすり減らしながら、
頑張り続けていた妻は──
最後の最後まで、
子どものことを考えていた。
──私には、きっと出来ない。
これまで妻の身の回りを、
ほとんど人に任せてきた。
そして今も妻は──
身体の半分も言うことが利かないのに、
子どものことを気にかけている。
『子どもが野菜食べてない』
『今日はいつもより元気ない』
そう心配しながら、
涙を流すこともある。
……子ども達は、
すっかり成人したというのに。
妻が倒れる直前まで、
見つめていたもの
──それは、家族だった。

その直前まで見つめていたもの
【介護の詩】
▼脳出血を起こした直後の妻
『破壊される妻』
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