あなたの「見える世界」は、脳がつくっている――RASとスコトーマの話
まず、ひとつ質問させてください
下のイラストを見てください。
ウサギは何匹いますか? (答えは下に書いてあります。まず自分で数えてみてください!)

数えましたか?
正解は、5匹です。
では、ここで次の質問です。
サルは何匹いましたか?
…そうです。 サルも2匹、ちゃんとイラストの中にいたのです。
でも、「ウサギを数えて」と言われた瞬間、多くの人の脳はネコだけを探し始めます。
サルは視野に入っていたはずなのに、まるで存在しなかったかのように「見えなく」なっていた。
これが、スコトーマ(心理的盲点) の正体です。
そして、これは脳の大切な仕組み、RAS(網様体賦活系) と深く関係しています。
「なぜ、同じ状況なのに、チャンスをつかめる人とそうでない人がいるのだろう?」
能力の差でも、運の差でもない。 その答えのひとつが、脳の仕組みにある可能性がある。
今日は、RAS と スコトーマ という2つのキーワードを通じて、「見える現実は自分でつくっている」というお話をしてみたいと思います。
RASとは何か? ── 脳の「門番」
RAS(Reticular Activating System)、日本語では「網様体賦活系」と呼ばれます。
難しい名前ですが、一言でいえば、脳への情報の「門番」 です。
私たちは常に膨大な量の情報にさらされています。 目に映る景色、耳に入る音、肌で感じる温度、漂ってくる匂い、SNSの通知、街の看板、職場の空気、家族の言葉……。
これを全部意識的に処理しようとしたら、脳はすぐにパンクしてしまいます。
そこでRASが働きます。
「今の自分にとって重要なもの」だけを意識に上げ、それ以外をフィルタリングする。
これがRASの役割です。
実は、この仕組みが発達した背景には、エネルギー効率という理由があります。
脳の活動には非常に大きなエネルギーが必要です。ある研究では、人間の脳をフルに動かすには原子力発電所1個分のエネルギーが必要という試算もあるほど。
だから脳は、すべての情報を等しく処理するのではなく、「重要なもの」だけを意識に上げることで、エネルギーを効率よく使う仕組みを持っているのです。
つまり私たちは、「世界をそのまま見ている」のではありません。 自分にとって重要だと脳が判断したものを、優先的に見ているのです。
ここが、とても重要なポイントです。
「急に見かけるようになった」は、世界が変わったのではない
RASの働きを一番わかりやすく体感できる例が、これです。
「ずっと欲しかったブランドもののワンピースを買った」途端、街で同じワンピースの女性をやたら見かけるようになって落胆した。
「最近増えた?」と思うかもしれません。 でも、昨日までワンピースを着た女性がいなかったわけではありません。
ただ、自分の脳が「それは今の自分に関係ある情報だ」と判断して、意識に上げるようになっただけなのです。
転職を考え始めたら、求人情報が飛び込んでくる。
副業を始めようとしたら、副業を始めようとしている友人が周りに増えた気がする。
コーチングに興味を持ったら、コーチングの話題や本が急に目に入るようになる。
これらはすべて、世界が変わったのではなく、自分の脳の「検索ワード」が変わったのです。
スピリチュアル的に引き寄せの法則と呼ばれる現象の多くは、この仕組みで説明できます。
願ったことが叶うのは、宇宙が動いたからではなく、脳が関連する情報やチャンスを拾いやすくなったから、という側面があります。
意識の向け先が変わると、見える世界が変わる。
見える世界が変わると、行動が変わる。
行動が変わると、現実が変わる。
これが、「引き寄せ」をかなり現実的に説明できる部分です。
スコトーマ── 目の前にあるのに、見えていないもの
RASとセットで知っておきたいのが、スコトーマ(心理的盲点) という概念です。
「スコトーマ」はもともと眼科の用語で、視野の中の盲点を意味します。
それがコーチングの文脈では、「重要だと思っていないために見えなくなっているもの」 を指します。
面白い実験があります。
「あなたの腕時計を絵に描いてください」と言われたとき、多くの人は文字盤の細部、数字の種類、デザインの特徴をうまく描けません。
アラビア数字なのかローマ数字なのか、数字は全部あるのか一部だけなのか、秒針はあるのか……。
毎日使っているはずの時計なのに、いざ描こうとすると手が止まってしまう。
なぜか?
時計を使う目的は「時間を知ること」であり、デザインの細部は重要ではないとRASが判断するから。
だから時間を見る時は、デザインではなく時間しか見ていないのです。
「見えていない」のではなく、「見ないようになっている」。
これがスコトーマの正体です。
もうひとつの例。
鼻の頭は、実はいつも視野に入っています。でも、普段は見えていない。
なぜなら、脳が「鼻の頭は重要ではない」と判断して、意識から外しているから。ところが誰かに「鼻の頭って見えてる?」と指摘された瞬間、急に鼻の頭が視野に入り始める。
これもスコトーマの原理です。
「重要度」が変わると、見える世界が変わる
ここで大切な問いが生まれます。
「何が重要か」は、誰が決めているのか?
答えは、自分自身のブリーフシステム(信念・価値観の体系)と、まわりの人の言葉です。
「自分には無理だ」という思い込みがあれば、脳はその証拠を集め続けます。
うまくいかない理由、失敗の記憶、できない自分の材料を。
逆に「自分にもできる可能性がある」と思い始めると、脳は別の情報を拾い始めます。
小さなチャンス、助けてくれる人、前よりできるようになった証拠を。
入力する値が変われば、目の前の世界もまた別のフィルターがかかり、見える世界は変わってきます。
ここで重要なのは、「何が入力されたのか」ではなく「誰によって入力されたのか」ということです。
同じ状況でも、誰の言葉に耳を傾けるかによって、脳が重要だと判断するものが変わります。
だから、コーチングでは「誰と話すか」「どんな問いを受けるか」が、変化の入口になるのです。
また、RASが判断する「重要度」は固定されたものではなく、刻一刻と変わっています。
たとえば、カフェで友人と話しているとき、周囲の騒がしさの中でも自分の名前が呼ばれたら瞬時に気づく。
これをカクテルパーティー効果と言います。
このボリュームを、コーチングでは意識的に操作していくことを目指します。
コーチングとRAS── スコトーマに気づくことが変化の入口
コーチングがRASやスコトーマに着目するのは、ここに大きな理由があります。
人は、自分のスコトーマを自分では見えません。見えていないから、スコトーマ・盲点なのです。
でも、コーチとの対話を通じて、今まで見えていなかったものが急に見えてくる瞬間がある。
「あ、そういう見方もあるのか」「私、ずっとそこだけ見ていたんだ」という気づきの瞬間です。
例えば私の場合は、「好奇心旺盛で色々なキャリアを歩んでいた」ことに対して、
「色々なことをやるのは悪いことですか?(色々やってもいいのでは?)」と言う問いをもらいました。
「あれ、私色んな分野を仕事としてやってもいいのかな」こう思うようになることで、スコトーマは簡単に外れます。
その瞬間、脳の重要度の評価基準が変わります。 そしてRASが、今まで見えていなかった情報を拾い始めます。
これがコーチングにおける「気づき」の正体のひとつです。
また、コーチが発する「問い」は、クライアントの脳への検索ワードになります。
「なぜできないのか」という問いに対して脳はできない理由を探しますが、「どうしたら一歩進めるか」という問いに対しては、可能性を探し始めます。
問いの質が、見える世界の質を変えるのです。
さらに言えば、無意識はコントロールできないものだと思われがちですが、意識と無意識の境界線上にあるものを少しずつ変えていくことは可能です。
呼吸は普段無意識に行われていますが、意識すれば意図的にコントロールできる。
それと同じように、RASが何を重要とみなすかも、訓練によって少しずつ変えていくことができます。
「不足」だけを見続けると、証拠集めが加速する
RASの仕組みを知ると、少し怖いことにも気づきます。
それは、ネガティブな方向にも同じように働くということです。
「私は嫌われている」と思い込んでいる人は、相手の少し冷たい表情や短い返信ばかりが気になります。
「お金がない」と強く思っている人は、支払い、請求、値上げ、損失ばかりが目につきます。
「自分は運が悪い」と信じている人は、日常の中にある小さな不運を集め続けます…
もちろん、現実の問題から目をそらす必要はなく
お金が足りないなら数字を見る必要があるし、人間関係に悩んでいるなら距離の取り方を考える必要があります。
ただ、「不足」や「不安」だけを見続けると、脳はその証拠集めをさらに強化してしまう。
だからこそ、意識的に「あるものを見る」習慣が大切なのです。これは脳の検索条件を変えるための、トレーニングです。
RASを味方につけるための3つのトレーニング
では、具体的にどうすれば良いのでしょう。3つのトレーニング方法を紹介します。
① 「自分は何を見たいか」を意識的に決める
無意識に任せておくと、脳は不安や不足の証拠を集めがちです。 「今日、自分の成長を感じられることはどこにあるか?」 「今の状況で、何がうまくいっているか?」 こういう問いを意識的に立てることが、RASへの検索ワードを変えることになります。私はチャンスを見る、私は可能性を見る、と自分の脳に宣言してあげることが大切です。
② 問いかけを変える
「なぜ自分はダメなんだろう」という問いに対して、脳はダメな理由を一生懸命探します。 「どうしたら、少し前に進めるだろう?」に変えるだけで、脳の動き方が変わります。 問いかけは、脳への指令です。自分を責める問いではなく、自分を前に進める問いを使ってみてください。その小さな積み重ねが、やがて見える世界を変えていきます。
③ 感謝ノートで「あるもの」を見る練習をする
「今日よかったこと」「ありがたかったこと」を3つ書くだけ。
最初は難しく感じるかもしれませんが、続けることで脳が豊かさの証拠を探し始めます。
朝のコーヒーがおいしかった。家族が普通に会話してくれた。仕事でひとつ片づいた。温かいお風呂に入れた。
こうした日常の小さな豊かさに気づけるようになると、「何もない」から「意外とある」に少しずつ変わっていく感覚が生まれます。
心に余白が生まれ、焦りではなく落ち着いた選択ができるようになっていきます。

引き寄せは、現実逃避ではなく現実の見方を変えること
「引き寄せの法則」と聞くと、スピリチュアルな話に聞こえるかもしれません。
でも、RASとスコトーマの仕組みを知ると、その現実的な説明ができます。
引き寄せは、ただ願えばいい・ポジティブでいればいい、ということではありません。
現実をどう見るか。どの情報を拾うか。どんな意味づけをするか。そこからどう行動するか。
この流れを整えることが、引き寄せの本質なのだと思っています。
RASの仕組みを知ると、引き寄せはずっと現実的になります。
意識の向け先が変われば、見える情報が変わります。
見える情報が変われば、選択が変わります。
選択が変われば、行動が変わります。
行動が変われば、現実が変わります。
おわりに
私たちは「世界をそのまま見ている」と思いがちです。
でも実は、自分の意識というフィルターを通して世界を見ている。
だから、意識の向け先を変えることは、決して「気の持ちよう」ではありません。 脳の仕組みを使って、自分がどんな情報を拾うかを意図的に選んでいくことです。
それが、可能性に気づける自分をつくる第一歩なのだと、私は思っています。
今日から、ひとつだけ試してみてください。
「自分の人生には、すでに何があるだろう?」 「今日、少しでも良くなっていることは何だろう?」 「今の自分に必要なヒントは、どこにあるだろう?」
こう問いかけるだけで、脳の検索条件は少しずつ変わります。
世界が変わったのではなく、自分の見方が変わった。 でも、自分の見方が変わったことで、確かに現実も変わり始めている。
と言うことに確かに気づくことが出来る。
あなたにとって「最近、急に目につくようになったこと」は何ですか?
それはもしかしたら、あなたの意識がそこに動き始めたサインかもしれません。
小さな気づきを大切に。その積み重ねが、やがて「見える世界」をまるごと変えていく力になります。
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