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flower_koibana
【せりふ三題噺】ずるいね|屋上.春一番.ローファー|ショートショート
朝、ローファーで登校する。
まだ少し冷たいアスファルトを、こつ、こつ、と鳴らしながら。
三寒四温のいたずらで、今日は少し肌寒い。
でも空は、ちゃんと春の色をしている。
校門をくぐって、上履きに履き替える。
外の顔から、学校の顔に切り替わる、ちいさな儀式。
そのまま、階段をのぼって屋上へ。
誰もいない時間の屋上は、ちょっとした秘密基地だ。
フェンス越しの空が、広い。
遠くで洗濯物が揺れている。
その瞬間、春一番が吹いた。
ふわり、と前髪が持ち上がる。
制服の裾も、心も、同じ方向にひっぱられる。
「寒いのに来るとか、物好きだね」
振り向くと、君がいる。
同じ上履きのくせに、なぜか余裕の顔。
「だって、ここ好きだし」
君は少し笑って、風に目を細めた。
その横顔が、なんだか春そのもので。
「……ずるいね」
思わずこぼれた言葉は、風にまぎれて消えたけれど、
たぶん、ちゃんと届いている。
三寒四温みたいに、
寒くなったり、あたたかくなったり、
気持ちは揺れる。
でも屋上は、何度でも来られる。
春一番だって、また吹く。
ローファーの音も、上履きの足音も、
同じ朝の中にある。
だから私は、また明日もここへ来る。
何度でも。
風が吹くたび、
ちょっとだけ、ずるい春に会いに。
了

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