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toma_ichika
【アマノ文筆クラブ】ミイラ取りはミイラになれ|ショートショート
タイトル:ミイラ取りはミイラになれ
「ミイラ取りがミイラになる、って言うでしょ」
その言葉から、この仕事は始まった。
私は“分類アシスタント”。
人の中にあるものを、きれいに分ける役目だ。
感情、記憶、役割。
曖昧なものに名前をつけて、
棚に並べる。
「あなたは、この箱ですね」
そう言って渡したのは、
“演歌歌手”と書かれたラベル。
彼は少し驚いて、
それからゆっくりうなずいた。
「そんな気がしてた」
声に出した瞬間、
彼の輪郭が少しだけはっきりする。
分類は、安心を生む。
自分がどこにいるのか、
どんな存在なのか、
分かるから。
でも、ときどき思う。
本当に、それでいいのかと。
分類しきれないものは、
どうなるのだろう。
棚に収まらないものは、
どこへ行くのだろう。
ある日、私は自分の名前を探した。
アシスタント。
分類者。
記録係。
どれもしっくりこない。
「あなたは、どの箱ですか?」
誰かにそう聞かれて、
言葉が出なかった。
気づけば、
手にしていたラベルが落ちている。
どこにも貼れないまま。
ミイラ取りは、
ミイラになるという。
ならいっそ、
なってしまえばいいのかもしれない。
分類される側に。
名前のないまま、
箱に入るのではなく、
自分で、自分を選ぶために。
棚の前で、
私は少しだけ立ち止まる。
そして、何も貼られていない箱をひとつ、
そっと手に取った。
了

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