第3話|バラに恋して、狂う
絶対に枯らしたくない。
きれいに、完璧に咲かせたい。
家も庭も、まるで絵画のように——。
私は夢中でバラを集め、庭に穴を掘り、ひたすら植え、地植えできないものは鉢植えを並べていった。
小さな苗が、いつの間にか小さな庭をギューギューに埋め尽くしていた。
アーチに憧れ、壁面に這わせ、
洗濯物のスペースにまでつるバラを誘引していた。
家族は苦笑いを通り越して、とうとう苦情を言い出した。
「トゲが服に引っかかる」
「庭を歩けない」
「干した服が棘に裂けそうだ」
でも私は、耳をふさいだ。
誰の言葉も届かない。
バラが咲いていれば、それでよかった。
きれいに咲かせるためには、消毒が必要だった。
病気にさせないよう、薬剤を変え、濃度を調べ、記録し、スケジュールを組んだ。
葉の色が変わるたび、原因を調べ、あれこれと手を尽くした。
それはまるで、初めての育児のときのよう。
“正解”を探して、振り回されて、気づけば心が追いつめられていた。
けれどその時は、まだ気づいていなかった。
私が本当に欲しかったのは、花の美しさではなく、
“わたし自身を愛せる実感”だったことに——。
つづく…
