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摂食・嚥下ケアは「口の中だけ」では終わらない〜“全身を呼び起こす”という視点〜



介護現場で「摂食・嚥下ケア」と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは、

・口腔ケア
・嚥下体操
・アイスマッサージ

このあたりだと思う。

もちろん、どれも大切だ。
むしろ基本中の基本と言っていい。

ただ、現場で長く高齢者と関わっていると、ある違和感にぶつかる。


「口のケアだけ頑張っても、うまく飲み込めない人がいる」

逆に言えば、

身体が整っている人は、口の動きまで変わる。

この感覚を持ち始めると、摂食・嚥下ケアの見え方が変わってくる。

人間の身体は、そんなに都合よく“口だけ単独稼働”していない。
むしろ全身で食べている。

文明は進化したのに、人類はいまだに「飲み込み=口の問題」と切り分けたがる。
人体はパーツ交換式のロボットじゃない。


「食べる前に身体を起こす」という発想

以前の職場では食事前のアプローチとして、

「まず身体を起こす」

という視点を大切にしていた。

ここでいう“起こす”とは、単純にベッドから起きることではない。

・筋緊張
・姿勢
・呼吸
・覚醒
・体幹機能

こういった全身状態を整える、という意味だ。


高齢者は、長時間の臥床や不良姿勢、痛み、緊張などによって、身体がどんどん硬くなる。

特に硬くなりやすいのが、

・頸部周囲
・肩周囲
・胸筋
・背筋

このあたり。

ここが硬くなると、姿勢保持が難しくなる。
呼吸も浅くなる。
首の動きも悪くなる。

当然、飲み込みにも影響が出る。

つまり、

「うまく飲み込めない」

の前に、

「そもそも身体が食べる状態になっていない」

というケースが現場では普通にある。

ゴムボールで“コロコロ”するだけで変わることがある


以前の現場では、ゴムボールを使って、

・上腕
・肩周囲
・背筋
・胸筋

などを軽く刺激していた。

マッサージというより、“コロコロ”する程度。

強く押すわけじゃない。
むしろ優しく、身体に「力抜いていいよ」と教えるような感覚だ。

すると不思議なもので、

・表情が柔らかくなる
・呼吸が深くなる
・眠そうだった人の覚醒が上がる

そんな変化が見られることがあった。


もちろん全員に劇的効果があるわけではない。

ただ、少なくとも現場感覚として、

「身体の緊張が落ちると、食べる力も変わる」

これはかなり実感してきた。

“美顔ローラー”が介護現場に出てくる理由


介護現場で「美顔ローラー」という単語が出ると、急に通販番組感が出る。

だが、実際には意外と理にかなっている。

高齢者は、

・無表情
・口周囲の硬さ
・唾液分泌低下

が起こりやすい。

特に、

・口唇
・頬
・顎周囲

が硬くなると、

・食べ物を取り込む
・咀嚼する
・唾液を出す

こういった動きにも影響してくる。

そこで、顔周囲を優しく刺激する。

美容目的ではなく、

「表情筋を緩ませる」

ために使う。

頬や口周囲を軽く刺激すると、

・口が開きやすくなる
・表情が柔らかくなる
・唾液分泌が促される

そんな変化が見られる方もいた。


人間って不思議なもので、顔が緩むと全身も少し緩む。

逆に、ずっと緊張している人は、顔も硬い。

だからこそ、“食べる準備”として顔への刺激は意味がある。

一番大事なのは「普段の介護」


ここが実は本題だと思っている。

どれだけ口腔ケアや嚥下体操を頑張っても、

普段の介護で首や肩をガチガチにしていたら意味が薄れる。

例えば、

・無理な引き起こし
・腕を強く引っ張る介助
・首が不安定な移乗
・身体がねじれたままの座位

こういう介助は、本人に強い筋緊張を作る。


結果として、

「食べにくい身体」

をこちら側が作ってしまうこともある。

だから、ノーリフティングケアの考え方は摂食・嚥下とも繋がっている。

持ち上げるのではなく、身体の動きを活かす。

無理に引っ張らない。

安楽に動けるよう支援する。

すると、

・首周囲の緊張軽減
・呼吸の安定
・姿勢保持の改善

にも繋がる。

つまり、

“食事介助は食事の時間だけで完結していない”

ということだ。


移乗も。
ポジショニングも。
離床も。
普段の関わり全部が、飲み込みに影響している。

「食べる」は全身運動

摂食・嚥下ケアというと、どうしても口の中ばかり見てしまう。

でも実際には、

・身体が起きているか
・呼吸が整っているか
・筋緊張が強すぎないか
・姿勢が安定しているか

こういった“全身状態”が大きく関係している。

だからこそ大切なのは、

「食べる前に全身を呼び起こす」

という視点だと思う。


口だけをケアするのではなく、

身体全体を整える。

それもまた、摂食・嚥下ケアの一つ。

そして介護って、こういう「一見関係なさそうなものが、実は全部繋がっている」が本当に多い。


だから面白いし、難しい。
人間の身体、説明書がないくせに繊細すぎる。まったく厄介な傑作だ。

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