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第122回/粟田貴也『「感動体験」で外食を変える――丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』


巻頭対談との併読がオススメ

発売されたばかりの『理念と経営』2025年2月号の巻頭対談は、トリドールホールディングス代表取締役社長兼CEOの粟田(あわた)貴也さんをゲストにお迎えしました。

トリドールは、あの「丸亀製麵」の会社です。そして、丸亀製麵のみならず、国内外に約20の飲食店チェーンを展開する外食産業の雄でもあります。

今回取り上げるのは、一代でトリドールを築き上げた粟田さんの、初の著書『「感動体験」で外食を変える』(宣伝会議)。

昨秋に本書が出てすぐに一読した私は感銘を受け、「ぜひ、粟田さんに巻頭対談にご登場いただきたい!」と思ったのです。つまり、今回の巻頭対談のきっかけとなった1冊でもあります。

対談相手は、小誌ではおなじみの人気経営学者・楠木建先生(一橋ビジネススクール特任教授)。

30万部突破のロングセラー『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)で知られる楠木先生は、日本における競争戦略論の第一人者です。

豊富な専門的知見を踏まえ、対談ではトリドールの競争戦略の卓越性に鋭く迫っています。

読者の皆さんには、2月号の巻頭対談と本書の併読をオススメします。

紙数の都合で対談では触れられなかったエピソードも満載ですし、併読すればトリドールの競争戦略からいっそう深い学びが得られるでしょう。

小さな焼き鳥屋から売上2300億円の大企業へ

丸亀製麵の会社なのになぜ社名が「トリドール」なのかと言えば、創業当時は焼き鳥屋さんから出発したからなのですね。

1985年、20代前半だった粟田さんが地元・兵庫県加古川市で開業した最初の店は、「トリドール3番館」という店名でした。

1号店なのに「3番館」であるのは、「こんな店を3店舗は持ちたい」と思ったからなのだそうです。創業当初からチェーン展開を念頭に置いていたわけで、そのへんも「只者ではない」感じです。

本書の第2章《夢を現実にしてきた道のり》では、そんな創業当時の思い出も綴られています。

いまでこそ、年間売上収益2300億円超の大企業になったトリドールですが、40年前の創業当初はごく普通の小さな焼き鳥居酒屋であり、3店舗目を出すまでに7年かかったそうです。トリドールにもそんな時代があったのです。

本書には、1996年に、粟田さんが業界の先輩として憧れていた渡邉美樹氏(ワタミ創業者)に教えを乞おうと、アポなしで訪ねていくエピソードが登場します。

渡邉氏の講演に行き、控え室を訪れて「焼き鳥屋をやっている粟田貴也と申します。詳しくお話を聞かせてもらえませんか」と懇願したところ、「今日は時間がないのだけれど、改めて本社に来てください。PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)を持ってきてください」と言われたのだそうです。

そのとき、粟田さんはPLとBSが何なのかさえわかっていなかったとか。
96年といえば、トリドールが創業してから11年目。その時点でもまだ我流で経営をしていたということでしょうか。

その粟田さんが、いまや飲食業界の雄になっていることに驚かされます。本書にはその急成長の道のりも記録されているのです。

丸亀製麵――その競争優位の源泉

トリドールがうどんにシフトしたのは、2000年に、粟田さんが父親の出身地・香川県丸亀市で、初めて製麺所でうどんを食べる体験をしたことがきっかけでした。

粟田さんは、小さな製麺所を取り囲む長蛇の列に驚き、打ち立て・茹で立ての讃岐うどんのおいしさに感動しました。その感動を、自分が経営する飲食店で再現できないものか? ……そんな着想から出発したのが丸亀製麵なのです。

2000年に国内1号店がオープンした丸亀製麵は、それから四半世紀で世界最大のうどん外食チェーンとなりました。

うどんチェーンは他にもたくさんあるなか、丸亀製麺がダントツのシェアを誇り、圧倒的競争優位に立っているのはなぜなのか? 本書には、その秘密も詳細に明かされています。

小さな製麺所で食べた讃岐うどんの感動が原点となっているだけに、丸亀製麵は《「感動」という体験価値を中心に据え》続けています。各店舗で製麺し、打ち立て・茹で立てを提供するという方針を貫いているのです。

非効率と言われようとも、セントラルキッチン方式は採用せず、つくりおきもしません。それは、打ったばかりのうどんをその場で茹でて食べる製麺所の感動こそが、丸亀製麵の強みだと考えているからです。

ふつう、飲食チェーンは効率化を重視して店舗を拡大していくものです。
ところが、丸亀製麵は逆で、店舗がどんなに増えても「非効率」なやり方を貫いています。そのことを、粟田氏は「二律背反」ならぬ「二律両立」という言葉で表現しています。

 二律両立とは、「うどんを手間暇かけて粉から手づくりする」と「全国各地に店舗を増やし同じクオリティで提供する」というように、一見すると相反する事柄を両立することです。
 通常、全国に店舗を増やそうとすると、セントラルキッチン化を進めるものです。そのほうがどう考えても早い上に、クオリティも一定に保てるからです。しかし、丸亀製麵はそうしない。創意工夫と信念で、2つを同時に成り立たせるのです。

各店舗で製麺し、打ち立て・茹で立てが食べられる。しかもそのプロセスをお客さんが目で見て楽しめる――そこに《「感動」という体験価値》があり、非効率でもその点は守り抜いてきたのが丸亀製麵なのです。

そして、丸亀製麵が他の追随を許さない競争優位を保っている理由も、実はそこにあります。
丸亀製麵の「二律両立」なやり方は手間暇もお金もかかるので、他チェーンがおいそれとは真似できず、そのことが巧まざる「模倣障壁」となっているのです。

『理念と経営』2月号の巻頭対談では、その点について、楠木先生が次のように解説しています。

 戦略の大きなジレンマとして、「よい戦略はすぐに真似されてしまう」ということがあります。外食業界は参入障壁が低いので、なおさらです。(中略)そういう業界で、なぜトリドールが長期にわたって高い利益を上げられているのか?(中略)
 飲食業界に詳しい人がうどんのチェーン店をやるとしたら、麺は市販の冷凍ものを購入するか、セントラルキッチンで作って冷凍したものを各店舗に輸送するでしょう。また、店の厨房はなるべく小さくしてその分客席を増やし、調理時間も短くして回転率を上げるでしょう。そのほうが合理的ですから。でも、御社はすべてその逆を行っているんですね。(中略)だからこそ、他社は丸亀製麺の真似をしようとすら思わなくて、競争優位がずっと長持ちする。

第3章《非効率でも体験価値にこだわる理由 キーワードは「二律両立」》では、そうした戦略の内実が、さらに詳しく明かされています。

時流に逆らい、省人化ならぬ「増人化」

急速な少子高齢化で、飲食業界も人手不足の大波に襲われている昨今。ゆえに、飲食チェーン大手はこぞって、配膳ロボットやセルフレジの導入などによる省人化を進めています。

ところが、トリドールは時代に逆行して「増人化」を推進しています。人件費を増やし、雇用人数を増やし、スタッフ1人ひとりの教育も手厚くする方向へと、舵を切っているのです。

なぜなら、人の手による調理やサービスがもたらす「体験価値」と「感動」こそ、同社のコアコンピタンスだと粟田さんは考えているから。本書には次のような一節があります。

 一律で人手不足に対し省人化という答えを出すのは、顧客不在の考え方ではないでしょうか。
 省人化によってお客様が来なくなったら、本末転倒です。人が生み出す感動を強みとしているトリドールの店では、省人化による客数減は十分にあり得ること。(中略)逆に強みを磨くことで来客数が増えれば、人件費などのコストがある程度かかったとしても、結果的には吸収できるという仮説を立てています。

そのような仮説を踏まえ、《勝ちに行く気持ちで、人を増やそうとしています》と、粟田さんは言います。

他の飲食チェーンが効率一辺倒になるなか、非効率なやり方を貫きナンバーワンになった丸亀製麵が、いままた省人化の流れに逆らって勝負に出たのです。

第4章《「人」こそすべての源泉》には、その勝負にかける思いが綴られています。

人材育成重視の姿勢を象徴するのが、丸亀製麵で2016年から取り入れられた「麺職人制度」です。同制度の舞台裏も、4章で紹介されています。

よい意味で「泥臭さ」と「熱さ」に満ちた1冊

第6章《世界で唯一無二を目指す グローバルフードカンパニーへ》は、トリドールの世界進出が語られる章です。

トリドールはすでに世界約30ヶ国・地域に約2,000店舗を展開していますが、粟田さんの目標はさらに大きく、世界約4000店舗を目指していると、本書で明かしています。

これまで、トヨタやソニーのような日本発のグローバル企業はあったものの、日本の外食産業からマクドナルドのようなグローバルフードカンパニーは生まれていませんでした。トリドールは、その最初の例になるかもしれません。

読者の中小企業経営者の皆さんからは縁遠い、別世界の話に思えるかもしれません。
しかし、本書を読んで私が感じたのは、粟田さんという経営者のよい意味での「泥臭さ」と「熱さ」です。

無謀とも思える大きな目標を次々と掲げ、自らの熱さで周囲の社員たちを巻き込み、実現していく――そうした姿は、昭和期の熱き名経営者たちとオーバーラップします。

中小企業経営者が読めば、粟田さんの熱さに感銘を受け、鼓舞されることでしょう。

粟田貴也著/宣伝会議/2024年9月刊
文/前原政之

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