振り子の哲学
人間という生き物は、つくづく不思議だと思う。
やりたいことをやりたいだけやると、精神や体が悲鳴をあげる。
かといって、やりたくないことばかり積み重ねていくと、それはそれでじわじわと何かが蝕まれていく。
自由すぎても壊れ、我慢しすぎても壊れる。
まるで綱渡りだ。
この世界はどこまでいってもバランスでできているらしい。
そしてわたしは、その綱の上で何十年も生きながら、いまだにその正体を摑みきれないでいる。
✅やりたいことだけでは、人は壊れていく
若い頃、わたしは「好きなことだけやって生きていけるなら最高だ」と本気で信じていた。
欲求に忠実に、感情に正直に。
それが生きるということだと思っていた。
だが実際には、食べたいものだけ食べ続けると体が音をあげる。
眠りたいだけ眠ると今度は時間という別の何かが失われていく。
承認を求め続けると、承認されても次の瞬間にはもっと深い渇きが湧いてくる。
欲求はキリがない。
叶えれば叶えるほど、形を変えてまた現れる。
これは道徳の話ではない。
仕組みの話だ。
快楽や欲求には必ず反作用がある。
身をもって知った。
あれほど楽しかったものが、ある日突然しんどいものに変わる瞬間を何度も経験してきた。
振り子は、一方へ振れすぎると必ず逆へと戻ろうとする。
それが自然の摂理なのだろう。
✅ど真ん中は「無」に等しい
では、極端を避けて「中庸」を目指せばいいのか。
そう考えていた時期もある。
しかし気づいてしまった。
ど真ん中というのは、存在するのに見えないという奇妙な場所だということを。
振り子が完全に静止したとき、それはもはや振り子ではない。
揺れてはじめて振り子と呼べる。
それと同じで、ど真ん中に固定されたまま動かない人間は、生きているのか死んでいるのかわからないような、透明な存在になってしまう気がする。
かといって、大きく揺れすぎれば壊れる。
どこかで見た記憶のある逸話に、強風に揺れながらも折れない葦の話があったと思う。
揺れることが生きることであり、揺れを完全に止めることは、ある意味で死に近い。
整然とした静けさより、微妙な揺らぎの中に生命はある。
そう今は思っている。
✅好奇心だけが、この迷宮の地図になる
では、どう生きればいいのか。
いまのわたしの答えは、「少しはみ出して、少し戻る」だ。
大きく踏み外すのでもなく、びくびくと中心にしがみつくのでもなく、少しだけ境界線を越えて、少しだけ引き返す。
その繰り返しの中に、かすかな手応えのようなものを感じるようになった。
そしてそれは、なぜかわたしの好奇心を刺激してやまない。
バランスとは何か、極端とは何か、人間とはどういう仕組みでできているのか。
知りたくてうずく。
だから何でも集め、何でも調べ、いろんな角度から物事を見ようとしてしまう。
情報を集めるのは知識欲だけでなく、この迷宮の地図を少しでも描きたいという衝動なのかもしれない。
目線を変えるたびに、世界は少し違って見える。
昨日の正解が今日の間違いになることもある。
それを知っているから、わたしはいつまでも「決定版の答え」を出せないでいる。
だが最近は、それでいいと思い始めている。
ひとつだけ、まだ答えの出ない問いがある。
この「少しはみ出して少し戻る」という生き方を、わたしは自分で選んでいるのか。
それとも、振り子という宇宙の仕組みに、ただ揺さぶられているだけなのか。
あなたはどちらだと思うだろうか。
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