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50ページの英文契約書、まだ最初から全部読んでいますか?

「50ページの英文契約書が届いた。今日中にざっくり内容を確認してほしい」

海外営業を担当していると、こんな依頼が突然飛んでくることがあります。

NDA(秘密保持契約)、取引基本契約書、代理店契約書、RFP(提案依頼書)、製品仕様書。

海外との商談が前に進むほど、読まなければならない英文PDFは増えていきます。

問題は、その処理方法です。

今でも多くの現場では、PDFを開き、文章をコピーして、DeepLやPapagoなどの翻訳ツールに貼り付ける作業が行われています。

1段落コピーして翻訳する。

PDF特有の不自然な改行を直す。

「権利が放棄されないものとみなされるが……」といった直訳調の日本語を読みながら、なんとなく意味を推測する。

そして、また次の段落をコピーする。

気がつけば数時間。

その間、バイヤーへの提案、見積書の作成、フォローアップ、新規商談の準備は止まったままです。

結局、その日に送れるメールは、

「契約書を受領しました。社内で確認のうえ、改めてご連絡します。」

という一文だけ。

もちろん、契約書を慎重に確認すること自体は間違っていません。

ただし、海外営業の立場で本当に最初に必要なのは、50ページすべてを日本語に翻訳することなのでしょうか。


海外営業に必要なのは「全文翻訳」ではない

海外取引では、営業担当者に求められる役割が非常に広くなります。

英語でのコミュニケーションだけでなく、価格交渉、物流、決済条件、契約、規格、場合によっては現地の商習慣まで理解しなければなりません。

JETROの「2023年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」でも、輸出拡大における課題として「海外における販売体制(人材等)の未整備」を挙げる企業は少なくありません。

特に中小・中堅企業では、海外取引に詳しい法務担当者がすべての案件にすぐ対応できるとは限りません。

そのため現場では、

「まず営業側で大枠を確認する」

「問題がありそうな箇所を見つけてから法務に相談する」

という進め方になることも多いでしょう。

ここで重要なのは、営業担当者が法務レビューを代替することではありません。

営業として次のアクションを決めるために、必要なポイントを短時間で把握することです。

たとえば代理店契約書であれば、最初に確認したいのは次のような項目です。

・支払条件
・契約期間
・自動更新の有無
・独占販売権
・最低購入数量
・契約解除条件
・損害賠償責任
・知的財産権の帰属
・準拠法、紛争解決方法

50ページすべてを同じ密度で読む必要はありません。

まず「今回の商談を前に進めるうえで、どこを見るべきか」を決める。

この考え方だけでも、英文契約書への向き合い方は大きく変わります。


返信が早い海外営業チームは、全文を翻訳していない

海外企業との商談を見ていると、契約書への初動が早いチームには共通点があります。

それは、最初から全文を完全に翻訳しようとしないことです。

代わりに、

「この契約書の中から、今の意思決定に必要な情報だけを先に取り出す」

という考え方をします。

生成AIを使う場合も、

「このPDFをすべて日本語に翻訳してください」

とは指示しません。

たとえば、メーカー側の立場で代理店契約書を受け取ったのであれば、次のように質問します。

「当社がメーカー側であることを前提に、キャッシュフロー上のリスクが高い条項を3つ抽出してください。」

あるいは、

「買主側から一方的に契約を解除できる条件を、該当条項とページ番号とともに整理してください。」

さらに、

「独占販売権が設定されている場合、その対象地域、期間、解除条件を整理してください。」

と聞くこともできます。

つまり、契約書を「最初から最後まで読むもの」と考えるのではなく、

契約書に質問する

という発想です。

これなら、50ページの文書から必要な箇所を絞り込んだうえで、人間が原文を確認できます。

全文翻訳に数時間使うよりも、まず重要な5ページを特定する。

海外営業の一次確認としては、この方が現実的です。


「翻訳」から「対話」へ

DeepLやPapagoなどの翻訳サービスは非常に便利です。

一文の意味を確認したり、メールを翻訳したりする用途では、今でも重要なツールです。

一方で、50ページの契約書やRFPを扱う場合、「言語Aを言語Bに変換する」だけでは足りないことがあります。

知りたいのは単なる日本語訳ではなく、

「この条件は当社にとって何が問題なのか」

「どこを交渉すべきなのか」

「次に誰へ確認すべきなのか」

といった、意思決定につながる情報だからです。

生成AIを活用すると、長文PDFを「読む対象」から「質問できる対象」に変えることができます。

ここからは、海外営業の現場で使いやすい4つのステップに分けて整理してみます。


Step 1:まず「何を確認したいか」を決める

PDFをアップロードする前に、一度立ち止まってください。

「この契約書から何を知りたいのか」

を先に決めます。

たとえば、

・全体像を5分で把握したい
・支払条件だけ確認したい
・独占契約になっていないか知りたい
・途中解約の条件を確認したい
・当社側の責任範囲を確認したい

などです。

質問が曖昧なまま、

「この契約書を分析してください」

とだけ指示すると、AIからも一般的で長い回答が返ってきやすくなります。

一方、

「当社が日本の消費財メーカーで、相手が米国の販売代理店であることを前提に、この契約で当社側の経営判断が必要になるポイントを5つ抽出してください。」

と伝えるだけで、回答の精度はかなり変わります。


Step 2:PDFをそのまま読み込ませる

文章を一つずつコピーするのではなく、PDFファイルを直接読み込ませます。

このとき重要なのは、文書だけを渡さないことです。

AIに、自社の立場と今回の取引関係も伝えます。

たとえば、

「私は日本の消費財メーカーの海外営業担当です。米国の代理店候補からDistributor Agreementが送られてきました。当社は売手・メーカー側です。」

といった情報です。

同じ契約条項でも、メーカー側なのか、代理店側なのかによってリスクの見方は変わります。

AIに正しい前提条件を与えることで、より実務に近い回答を得やすくなります。

なお、契約書には価格、個人情報、製品情報、顧客情報などの機密情報が含まれる場合があります。

利用するAIサービスのデータ利用方針や自社の情報セキュリティポリシーを確認し、必要に応じて機密情報をマスキングしてから扱うことも重要です。


Step 3:リスクを「原文の場所」とセットで抽出する

ここが最も重要です。

AIに、

「この契約書で当社にとって不利な条件を教えてください。」

とだけ聞くのではなく、

根拠となる条文まで提示させます。

たとえば、

「当社(メーカー側)にとって不利になる可能性がある条項を5つ抽出してください。それぞれについて、
①該当条項
②ページ番号
③原文
④日本語での要約
⑤なぜリスクなのか
を整理してください。」

と指示します。

すると、人間側はAIの説明だけを信じるのではなく、該当ページを直接確認できます。

さらに気になる項目があれば、

「この契約解除条件は、メーカー側から見るとどのようなリスクがありますか?」

「この条項をより双方に公平な内容へ修正する場合、どのような論点を相手に確認すべきですか?」

と質問を続けます。

ここでのポイントは、AIに最終判断を任せることではありません。

確認すべき場所をAIに絞らせ、人間が原文をチェックする。

この役割分担です。

契約締結前の正式な判断については、必要に応じて法務担当者や専門家によるレビューを行うべきですが、営業段階での一次整理には十分活用できます。


Step 4:そのまま次のアクションまで作る

契約書の確認だけで終わらせる必要はありません。

交渉ポイントが整理できたら、そのまま次のアクションにつなげます。

たとえば、

「第8条の支払条件についてのみ確認・修正を希望しています。それ以外の条件については前向きに検討していることが伝わる、丁寧な英文メールを作成してください。」

と指示します。

さらに、

「相手との関係を悪化させないよう、要求ではなく相談のトーンにしてください。」

と追加すれば、実際の商談に使いやすい下書きになります。

人間はその内容を確認し、必要な修正を加えて送る。

つまり、

PDFを読む

重要ポイントを整理する

交渉事項を決める

返信文を作る

という作業を、一つの流れとして進められるようになります。


AIに任せる部分と、人が判断する部分を分ける

AIを使うときに、もう一つ大切な考え方があります。

すべてをAIに任せようとしないことです。

AIが得意なのは、

・大量の文章から特定項目を探す
・複数の条項を整理する
・難しい文章を平易に説明する
・比較表を作る
・返信文の下書きを作る

といった作業です。

一方、

「この条件を受け入れるか」

「どこまで譲歩するか」

「この取引を進めるべきか」

という判断は、人間側に残ります。

海外営業におけるAI活用は、人間の判断をなくすことではありません。

判断の前に発生する大量の読み込み・整理作業を減らすこと。

ここに大きな価値があります。


これから重要になるのは、英語力だけではない

海外営業では長い間、「英語ができる人材」が重要だと言われてきました。

もちろん、英語力は今でも大切です。

ただ、生成AIが急速に普及した現在、もう一つ重要になっている能力があります。

それは、

「何を確認すべきかを決める力」

です。

50ページの契約書が届いたとき、

「全部日本語にしなければ」

と考えるのか。

それとも、

「この商談を次に進めるために、今確認すべき5つのポイントは何だろう」

と考えるのか。

この違いは、海外営業のスピードを大きく変えます。

英文契約書は、「すべて翻訳してから読むもの」から、

必要な情報を引き出し、意思決定に使うもの

へ変わりつつあります。

もし今、デスクの上にまだ確認できていない英文PDFがあるなら、最初から50ページを翻訳するのではなく、一度こう質問してみてください。

「この契約を進めるかどうか判断するために、まず確認すべきポイントを5つ教えてください。」

そこから、海外営業の仕事の進め方が少し変わるかもしれません。


私たちRindaでも、海外営業におけるAI活用を「単なる翻訳の効率化」ではなく、バイヤー対応や情報整理、フォローアップまで含めた営業プロセス全体の効率化という視点で研究しています。

海外営業の現場で、

「こんな作業に時間がかかっている」

「AIを使いたいが、どこから変えればいいかわからない」

といった課題があれば、ぜひコメントで教えてください。

現場で使える方法を、今後も具体的に紹介していきます。

(Rinda 日本市場デスク)

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