真実味のある"嘘"のつくりかた ─自衛や創作のための演出テクニック─
物書きの端くれとして、心にとどめておきたいことがある。文章を読んだときに「相手からどう思われるか」ということだ。
ここでいう”相手”は「不特定多数の人物」ではなく、自分の文章に登場する《なんらかの役割を持った人物》を指している。
というのも、こんな経験があったからだ。
今から15年ほど前のこと──。
”見知らぬわたし”が愛を乞う
父に送ってもらい繁華街のカフェへ向かった。
地元に戻るのはお正月以来だった。
雪国の夏。日中はもちろん暑いのだけれど、夜気はすこしひんやりしていた。
地元で夜に飲みに行くのははじめてで、わくわくしながら待ち合わせたのは、中学時代の同級生。
わたしと同じように地味なタイプだったはずの彼女は、ぴったりと身体に沿うようなワンピースを身に着け、明るいオレンジブラウンに髪を染めていた。まばたきするたびに、長いつけまつ毛がバサバサと羽のように揺れる。
中学時代からほとんど見た目が変わっていないわたしは気後れした。
けれども、口を開いたら、よく知っている彼女だった。
「言うか迷ったんだけどさあ……」
お酒が多少入ったところで見せられたのは、隣のクラスだった男子のブログだ。
自己紹介の文面からすぐにわかった。なんなら顔写真すら出していた。
彼女の長い爪が、とんとん、とひとつの記事を指し示している。
日記の体で綴られているそれは、読み進めるごとに、ざらりと身体の端から鳥肌が広がっていった。
日記のなかには”わたし”が登場していた。
登場人物のなまえは「り n か」。
そして、あらゆる特徴がわたしを指し示していた。
”見知らぬわたし”は、思ってすらいない愛の言葉を彼に向かって伝え、振られ、すがっていた。
《振られても、りnか はあなたのことが好きなんですね》
《きっと今も未練があるんだろうなあ……ストーカーされなきゃいいけどw》
……というような文字が、コメント欄には溢れかえっていた。
内容もコメントも、詳しくは思い出せない。
それほど血の気が引いていた。そして次の瞬間には、燃えるような怒りが襲ってきた。
とにかく、ある夏にわたしが彼に愛を告げ、振られ、すがった。
そんな内容なのである。
彼は個人情報全開でブログを綴っていたため、わたしを知っている人物が読めば、「凛花って……そうだったんだ」と引いてしまうような内容だった。
現にそういうわけで友人が見つけ、わたしに告げているのだ。
でもわたし、……そんなこと、一言もいっていない。
というか、このひとのことをそんなふうに思ったことすらない。
本当に意味がわからなくて、ぞっとした。
「わかってる、わかってるよ」
真っ白になっているであろうわたしに、彼女は励ますように、言った。
あの日記は、どういう意図で書かれたものだったのだろう。
創作だとしたらあからさまにわたしをキャラクターにしてほしくなかった。
逆に、なによりそれが事実だと思って書かれているなら、事実無根すぎてとても怖い。
日々のことを綴っていて、考えた。
知らないところで明らかな登場人物になりたくない。
同時に、だれかにわたしがあの日記を読んだときのような気持ちをさせたくないとも思っている。
たとえそれが、自分をひどくボロボロに傷つけた相手であっても。
いつまでも忘れられないような恐怖を植えつけた相手であっても。
だから、エッセイを書くときは”演出”テクニックを使って、出来事はなるべくそのまま描きつつ、だれのことかわからないように留意している。
これを知っておくと、こんなことができる。
1.読んだ相手に「自分のことだ」と思わせないこと
2.自分や出来事の特定を防ぐこと(身バレ防止)
”起こった出来事”そのものを捏造しなくても、誰にも特定されず、不快にさせない自衛の方法だ。
おそらく、読んでいて違和感も出ないと思う。
そして、このテクニックを応用するとこんなことができる。
3.自身の体験談からフィクションを創り上げること
演出の強度を上げれば、フィクションの物語として仕立てることもできる。
この場合、体験談が"物語の種"として生まれ変わる。
この記事では、
・以前書いたエッセイや小説をケーススタディとして、答え合わせをするように進めていくこと
・何かで学んだのではなく、経験に基づいた自分なりのノウハウであること
の2つの理由から有料記事にさせてもらっている。
現実の出来事を書きつつ身バレや相手の特定を防ぎたい方や、自身の体験をベースにまったくべつのフィクションの物語を生み出したい方向けの内容になっている。
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