台所にて、すみれ色の冒険
ボウルの中に、すみれ色の水が佇んでいた。
思わず息を飲む。
紫キャベツを洗ってざるを持ち上げたときのことだ。すみれ色の洗い水。それは私の台所では、はじめて見る色だった。
こういう驚きこそが、私にとっての自炊の面白さなのだと思う。
そう考えてみると、冒険できないことにフラストレーションが溜まっていた気がする。家族が食べないかもしれないものは買わない。そういう暗黙のルールができていったい何年になるだろう。
昨日スーパーで迷った。口にも顔にも出さないように気をつけながら、心ではうんうん唸っていた。紫キャベツをかごに入れるか。やめるか。考えて考えて考え込んで、たぶんだれも食べないのだろうなと思い、踵を返した。
でもやっぱりもどってきてかごに入れた。
千切りにした紫キャベツは、つやつやしたシャツみたいな風合いをしていた。塩を振ってしばらく待つ。その間に甘めのキャロットラペをつくっていた。
十分ほど経ったころ、ざるを持ち上げていると、空っぽだったはずのそこに、もう一度、浅い水たまりみたいにすみれ色が広がっていた。
紫キャベツをてのひらに収まるだけ掬い上げ、ぎゅうと絞る。ぽた、ぽたと雫が落ちてくる。それもすみれ色。しっかり絞ったつもりだった。でももう一度力を入れると、じゅわっとすみれ色が滲み出してきた。
それにしても、紫キャベツ自体は赤みを帯びているのに、出てくる汁気は限りなく青に近いパープルで不思議な感じがした。
味をぼやけさせる水けをなんとか取った私は、硝子のボウルに、オリーブ油と砂糖と塩、酢、そしてクミンパウダーを振り入れて混ぜた。紫キャベツも加えてざっ、ざっと混ぜてゆく。
それから冷蔵庫の中に眠っていた、道の駅で買ってきたディルの束から葉っぱをちぎって小さめに切って、一緒に混ぜ込んだ。
事前に調べてあったこのレシピは、紫キャベツの「アチャール」というらしい。
アチャールというのはインドやネパールなどの南アジアで親しまれる、日本でいう漬物のような存在。慣れない食材になんだかおしゃれな名前。怯みながら、口に運ぶと、カレーを食べたときのようなスパイスの香りがふわっと鼻を抜けていった。ついで、ディルの爽やかさが来る。
しゃきしゃきした食感だけど、やや柔らかめで食べやすい。おいしい。夫の弁当にも忍ばせた。
でも息子も娘も夫も。
みんな残した。
でも、それでも、私ひとりのためにこれからも贅沢に作り続けようと思っている。
(1,000字)

あとがき
紫キャベツを買ってみようと思ったのは、ぐみさんへのインタビューがきっかけ。
▼紫キャベツじゃないんだけど、きゃべつがちょっと出てくる最近好きだった記事。冒頭の状況、私もわからないかも……
(地方住みなのにペーパードライバー)
今日は「弁当」でした。

弁当要素がすごく薄いんだけど、きょうのお弁当づくりの一幕を描いた日記?エッセイ?です。

▼5月はこのキーワードの中からエッセイを書いてみます。
▼エッセイの設計図・発想法をまとめました。
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