モコモコたちの星探し
欠けた月が、空の低い位置でやわらかく輝いていた。
背中越しの感触が、硬くて少し痛い。蒸し暑い8月の夜でも、タオルを1枚敷いただけのコンクリートは涼しく感じられた。
── 午前2時。
結婚してはじめてのお盆休みを、夫の実家で過ごしていた。駐車場に2人並んで寝転び、空を見上げた。
ペルセウス座流星群を見たい。
そう言い出したのは、わたしだった。
夫は面倒くさそうにしていたけれど、まあいいかと、いっしょに寝転んでくれた。
はじめは墨を流したような空が広がっていただけなのに、他愛のない話をしている間に少しずつ目が慣れてきた。
地方で生まれたものの、長く東京で暮らしていたわたしたちは、田んぼに囲まれたその街の、空の広さと、きらきらしさに驚いた。
「あ、あ、……流れた!」
夫がしー、と口に指を当てた。きっと苛立っているだろうその顔は、闇に溶けてよく見えない。
落ちていく星は、ミントグリーンに輝いていた。
黄色や白じゃないことに驚く。
「昔見た蛍もさ、ああいう色してたよね」
風が出てきた。虫の音が一瞬止む。
夜色の雲が打ち寄せるように薄く世界を覆い隠していく。少しずつ星空の面積が狭まってきた。
それでも、次の流れ星をなかなか諦められずに、わたしたちはしばらくそこで粘っていた。
* * ☆ * *
わが家のナイトルーティンを挙げるとしたら、きっとこれ。
寝る前に、図書室で絵本を読むこと。

ソファに座ったりラグに寝転んだり、思い思いの体勢で、子どもたちが自分で本を読む。
わたしは、たいてい洗濯ものを干す時間にしているけれど、稀に読んであげることもあり、その日がそうだった。

5歳の息子は、擦り切れるほど読んだ『りんごの本』(岳陽舎)を棚に戻した。
「はじめての発見」というフランスの人気シリーズなのだという。
世界中のりんごや、その成長の様子が、緻密なイラストで描かれており、彼のお気に入りの1冊だった。


息子は、同じ題材を追うように本を読むのが好きだ。
図書館の中で読んでいない機関車の絵本はもう見つからない。それ以外だと、ドーナツ、ぶた、りんごなどが彼の研究テーマだった。
『りんごの本』の隣が目に止まった。いつまでも誰にも読まれない、同じシリーズの1冊。

わたしはおもむろにそれを、『地球と宇宙の本』を取り出した。

「そういえばさ、今いる場所の下にマグマがあるって、知ってた?」
マイクラ好きな5歳は、ぴくりと片眉をあげた。
「まぐま?」
「……どのページだったかなあ」
はじめから読んでいく。
ゾロリに没頭していた8歳の娘もいつのまにかそばに来た。
最後まで読み終えた。
息子は、マグマよりも、惑星に興味を持った。それからわたしたちは、同じ棚にある分厚い図鑑で、少しだけ惑星や星座について調べたのだった。
* * ☆ * *
「今日の夜、ふたご座流星群が見えるらしいよ」
ふたご座生まれの息子は、ぱちぱちと長いまつ毛を震わせた。
近ごろ、ナイトルーティンが増えた。
”星見の日”ができたのだ。子ども部屋を暗くして、じぃっと外を見る。だんだん目が慣れていく。はじめて自分でオリオン座を見つけた子どもたちは興奮していた。
夫が「21時くらいの空のほうが綺麗やから、外で見たら」と言った。
お風呂も終わって、あとは寝るだけというときに、外に出るのはいやだなあと思っていた。寒いし。実行には移さなかった。
でも、ふたご座流星群は今日が見頃だ。
お風呂上がりのまだかすかに湿った髪の毛を、息子は帽子で、娘は耳当てで、わたしはバラクラバで隠した。上着を2枚重ねで着込み、モコモコになった。
庭とはいえ、夜に出るのって久しぶりだね。
先に外に出た夫と息子にそう言おうとドアを開けたら、なんだかしょんぼりしている。
「曇っとるんよ」
夫が苦笑した。
この時間は、冴え冴えとした星が本当に美しいのに、今日は違った。薄いグレーの雲が、レース編みのように何層にも重なっていた。
「ねえ、ねえ!」
娘が興奮した声を挙げた。
「月がさ、動いてる! 月がすごいスピードで動いてるよ!」
確かに月が走っているように見えた。わたしたちのいる場所はこんなにも凪いでいるのに、上空はとても強い風が吹いているのだろう。薄い雲がぶわりと流されていく様子が見えた。
肉眼で見える星は、雲のすきまから、2つだけ。
「あのすきまから、見えないかな」
昔流れ星を見たとき、どこを見たらいいのかがわからなくて困った。すきまだけをじぃっと眺めたら、意外と見つけやすいのでは。
そんなことを思ったけれど、雲のすきまは、風に流されてどんどん小さくなっていく。
「無理やな……」
「じゃあなんで見えるって言ったんだよ!」
天気のせいだとはわかっていないのだろう、息子が癇癪を起こした。わたしたちは室内に戻り、モコモコ武装をほどいた。
ピークは今夜だけれど、明日も比較的見えやすいらしい。
モコモコたちの星探しにリベンジしたくって、わたしは図鑑やWebで予習をはじめた。
(2,000字)
後書き:
最近、2,000字または1,000字縛りのエッセイを楽しんでいる。
このあと調べてみたのだけれど、オリオン座から左に、2つ並んだ明るい星を探す。それが、ふたご座の一部。”放射点”がその近くにある。
放射点から流れ星が出るわけじゃない。空全体を見渡すのがポイントなのだそう。
明日、星探しのリベンジをできたらいいな。
▼モノカキングダムに参加しています。
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