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【短編小説】法務が死神すぎる

 契約書の山に、紙の擦れる音が落ちた。
 法務部の氷室さんは、いつもの無表情でページをめくる。

「……この一行、死にますよ」

 静かにそう言って、黒いボールペンで“致命傷”に線を引いた。
 その瞬間、営業の川島さんが小さく息を呑む。

「し、死ぬ……? 俺が?」

「いいえ。我が社が。」

 氷室さんは淡々と告げる。
 まるで“寿命を視る”かのように。

 彼の指先が止まるたび、空気が一度冷える。
 ごく普通のオフィスフロアなのに、背筋がじわりと伸びるのはなぜだろう。

「ここも危険ですね。三ヶ月後に死にます。
 ――契約が。」

 “契約の死因”を淡々と読み上げていく氷室さん。
 川島さんは自分の後ろに鎌が見えたのか、肩を震わせる。

「だ、大丈夫なんですよね……?」

「ええ。死を避ける方法なら、いくらでも。」

 氷室さんは、まるで魂の行き先を整えるように条件を書き換え、文言を補い、曖昧さを削いでいく。

 ――たった数分で、危篤の契約書が蘇った。

「これで“生き延びます”。」

 そう言ってわずかに微笑んだとき、
 法務部の“死神”は、ほんの少しだけ人間に見えた。

 でも次の瞬間。

「……あ、ここ。
 このままだと、あなたの残業時間が死にますね。」

「そ、それは……もうすでに……」

 川島さんの小声が、会議室に虚しく溶けていった。




「法務が死神すぎる氷室さん。
 彼が線を引くたび、契約の寿命が縮む。」


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