【短編小説】「人事が占い師すぎる」
「最近、オーラがくすんでますね」
昼休み明けの面談室。
人事の桐生さんは、私の顔を見もせず、コーヒーカップの表面をじっと覗きこんでいた。
「えっ……オーラ?」
「はい。特に、左肩あたりに“職場の気”が滞ってます」
「肩こりかもしれません」
「それも含めての運命です」
桐生さんは、なぜかいつも“予言口調”だ。
評価面談のたびに、星座でも四柱推命でもなく、
職場風水という謎のジャンルで人生を診断してくる。
「机の左側に書類が積み上がっていませんか?」
「……あります」
「その山が“過去の未練”を象徴していますね」
「ただの経費精算です」
笑いをこらえながら返すと、桐生さんは真顔で頷いた。
「お金も“気”の流れですから。滞ると、金運が下がります」
……ぐうの音も出ない。
「あと、昨日、何か液体をこぼしました?」
「(えっ)……コーヒーを……」
「厄落としです。おめでとうございます」
なにがおめでとうなのかは分からないが、
人事から祝福されると、なんとなく昇給した気分になる。
最後に、桐生さんは静かに笑って言った。
「来期は良くなりますよ。昇給運、上昇中です。
――もちろん、占いだけじゃありません。
ちゃんとあなたの努力も、数字も見ていますから」
その瞬間、占い師ではなく“人事”としての顔が見えた気がした。
面談室を出ると、肩が少し軽くなっていた。
私は自席に戻り、机の左側の書類を少し減らした。
運気も、仕事も、きっとそれでちょっと上がる。
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