【短編小説】灰色の夕陽、赤とんぼ #虹色創作部
堤防の端に、小さな公園がある。
滑り台は折れ、砂場は瓦礫で埋まり、錆びたブランコが一つだけ、灰色の夕陽を背にきいきいと軋んでいた。
少年が乗っていた。
軍手のように薄汚れた小さな手で鎖を握り、片方の靴を脱ぎ、裸足のまま、ゆっくりと空を蹴っている。
赤とんぼが群れをなして飛び、煤けた光の中で血のように赤く光っていた。
私は港へ魚を運ぶリヤカーを押しながら、その横を通った。
風は冷たく、潮と錆と焦げた木材の匂いが混じっている。
少年は顔を上げ、赤とんぼを目で追っていた。
何を思っているのか、私には分からない。
だがその小さな背中の骨ばった線を見ているうちに、なぜか言葉をかける気になれなかった。
空は鈍い鉛色で、海の向こうにはまだ焼け跡の煙がうっすら立っていた。
私はその光景に、自分の幼い頃を思い出した。
疎開先で見た赤とんぼ、帰らなかった友達、失くした家。
胸の奥がきゅっと縮む。
ブランコは軋むたびに、鎖が細かく震えて音を立てる。
少年の影が長く伸び、赤とんぼの影と混ざって、灰色の夕陽に溶けていく。
私は立ち止まらずに歩いた。
背後で小さな鎖の軋む音が遠のき、羽音のようなとんぼの翅の擦れる音が、いつまでも耳に残っていた。

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あとがき
虹色創作部さんのお題「赤とんぼ」
に参加させて頂きました✨
戦後の瓦礫、煤けた空気感の中で舞う
赤とんぼをイメージしました。
