【短編小説】 魔女のスープの作り方
あたし、見習い魔女のチャイ。
今年15歳。
ちょっと、大人の階段登ってる最中よ。
15歳になった魔女は、試練に受かると、
魔法の杖を授かるの。
あたしはね、透明なガラスの先に、
金色の星のついた杖が欲しいんだ。
◆
夏が近づこうとしてる。
夕立が多くなり、湿気が身体にまとわりつく。
女の子代表して言うけど、
湿気で前髪が乱れるの、ほんと嫌よね。
気の早い蚊に刺され、右の二の腕に
ぷっくりとした虫刺され跡。
柔らかくて白いだけの肌に、
そこだけがやけに熱を持って主張している。
あたしは虫除けスプレーを買って、噴射する。
まるで勇者の鎧を纏ったよう。これで安心ね。
あたしは森にわけ入った。
試練を、受けるために。
◆
試練はひとつ。
魔女のスープを作ること。
材料がわかんないの。
だから、ママの書斎の本「魔女の試練」を開いた。
その本によると、次のアイテムが必要みたい。
眠り苔、黒すぐり、銀葉草、星降りの実、白い息のガラス玉、梟羽草、夜露ミント、影山椒、宇宙のきのこ
えっ?多すぎない?(笑)
でも本格的な魔女になるための試練。
頑張らなきゃ!
◆
わーーーん、大変だった。
途中、何度も死ぬかと思ったよぉ。
なんだか身体もじんじん疼くし。
でもね、
“宇宙のきのこ”以外は集まったの。
何があったかは、
また別の話でゆっくりと語らせてもらうね。
だって、これだけで20,000字超える大作になっちゃうもん。
創作大賞に応募出来るよね。
ファンタジー部門でね。
で、最後の“宇宙のきのこ”。
聞いたこともないなぁ。
ま、全アイテムそうなんだけど。
「さてさて、また本で調べなくちゃね、ブラン」
使い魔のブランに声をかける。
ブランは真っ白な猫でね、
ふわふわの毛並みで、ちゅ〜るが大好き。
あたしが赤ちゃんの時から、この家にいるんだよ。
「調べ方、手際良くなってきたな」
ブランが鼻をピクピクさせる。
「宇宙のきのこ」
ソーセージ座が宵闇に輝くとき、
星のように光り、小さな朝露を宿して、
夜の底でだけ息をする。
別名“星雫茸”
「任せてよ、ブラン」
ブランを抱きしめると、
彼は満更でもなさそうに髭を揺らした。
◆
月が夜を照らすのを待ち、
あたしは森の奥に進んでいく。
はぁはぁ、という息の音だけが、
静寂の中に溶けていく。
チャイ、立派な魔女になるにはね、
ただ頑張るだけじゃないの。
自分を遠くから見つめる眼差しと、
辛い時笑い飛ばせるユーモアが必要なのよ。
ケセラセラ〜って歌ってね。
ママの声が木霊する。
優しいママ。
いつも忙しそうだったけれど、
夜は暖かなベッドの中で、おとぎ噺を読んでくれた。
その時間は、あたしの宝物だったんだ。
深い森は迷宮みたいで、
魔物が潜んでいるような気配がする。
おとぎ噺で読んだ魔物は、
頭に山羊みたいな捻くれた角が付いていて、
静かに笑っていた。
まるでこれから、
食べちゃうぞって言うみたいに……。
ぶるぶる……。
背筋が細かく震えて、身体が冷えてくる。
あたしはブランを抱えて、胸を張った。
鼻歌を口ずさむ。
「ケセラセラ〜!ね、ブラン」
「いい調子じゃねぇか、嬢ちゃん」
ブランの身体はあったかい。
歌ったことで、なんだか楽しくなってきちゃった。
◆
森を抜けると、小さな芝生の空き地があった。
空には満天の星。
ソーセージ座が輝いている。
手のひらのガラス玉が光った。
その光は真っ直ぐに空き地の真ん中に。
小さなきのこが、白い息で光っている。
えぇっ!?見て、きのこ、光ってる。
「見つけやす過ぎない?」
「まぁ、親切が一番ってことで」
ブランと目を合わせて笑った。
彼は、少しだけ優しい目をしていた。
「よくやったな、チャイ」
ブランが、あたしの胸に頬擦りする。
……見つけたよ、ママ。
白く光るきのこは、夜の底で呼吸をしていた。
あたしは、宇宙のきのこにそっと触れた。
指先から、湿り気を帯びた熱が広がっていく。
心臓が、ドクンドクンと大きく脈打った。
一瞬、息が止まった。
これで一人前の魔女になる。
待ってて、ママ。
前回のソーセージ座流星群の夜、
行方が分からなくなってしまったママ。
あたし、絶対に捜し出すからね。
ママと同じ、金星のガラスの杖を携えて。
了

■セリフ
「見て、光ってる」
■三題
・宇宙
・スープ
・虫よけ
■お題
・ソーセージ座流星群
田原にかさんのお題は、文字数オーバーのため、
フレーズのみ引用させて頂きました🙂↕️
