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【短編小説】 靴擦れのパレード

目をつぶると浮かぶのは、閉園前のメリーゴーラウンドの光。夕立後の熱気。

古びた馬車と、安っぽいフューシャピンクの鞍をつけた白馬。きらきらとした光の装飾は、まるでパレードのよう。

あの頃のあたしは、小さなチェーンのバッグを持って、シフォンのブラウスに、ミニスカートを履いていた。緩く巻いた髪。少し背伸びしたヒールの靴。

メリーゴーラウンドはぐるぐる回る。
ピエロが遠くで笑っている。

「遊園地には、行きたくない」

このセリフを恋人に言うと、たいてい二通りの反応をされる。ホッとした顔か、残念そうな顔。

前者は大抵遊園地よりセックスが好きなタイプで、後者はセックスよりロマンスが好きなタイプだ。

あたしはどちらとも、乾いた距離を保ってしまう。ピエロの持つ風船のように、あっちにふらり、こっちにふらり。

「えぇ〜?楽しいよ?遊園地」
この人は後者。チケットの予約画面を見せてくる。

スマホの液晶をスクロールする指が回転して、反射する光はパレードみたいだ。

目が回ってきた。

あぁ、もう別れちゃおっかな。

閉園前のメリーゴーラウンドは、閑散としていた。

あなたとあたし、ふたりだけ。

少し背伸びしたヒールに、小指が擦れて血が滲んでいた。でも、気にならなかった。

隣同士の木馬で、触れ合うこともできずに、
並んで回る距離が、今の距離みたいで。

「あ……」

出しかけた声は、世界に生まれる前に
喉の奥に消えてしまった。

メリーゴーラウンドのちゃちなメロディーが、終わらないよう願って、あたしは木馬にしがみついた。

メロディーが消えていく。
木馬から降りる。

心臓の音が聞こえるくらいの静寂が訪れた。

「……別れよう」

あなたから聞こえた声で、靴が片方脱げた。
拾ってくれる王子様は、もういない。

いつか、再び行けるようになるんだろうか。
雨上がりの遊園地に。

メリーゴーラウンドから目を逸らさずに、誰かと同じ馬車に乗って。

目をつぶる。
ちゃちなメロディーが響いて、ピエロが笑う。

その時あたしは、ペタンコのスニーカーを履いている。

そしてそっと、靴紐を結び直す。





◆シロクマ文芸部
◆お題:目をつぶる

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