【短編小説】 靴擦れのパレード
目をつぶると浮かぶのは、閉園前のメリーゴーラウンドの光。夕立後の熱気。
古びた馬車と、安っぽいフューシャピンクの鞍をつけた白馬。きらきらとした光の装飾は、まるでパレードのよう。
あの頃のあたしは、小さなチェーンのバッグを持って、シフォンのブラウスに、ミニスカートを履いていた。緩く巻いた髪。少し背伸びしたヒールの靴。
メリーゴーラウンドはぐるぐる回る。
ピエロが遠くで笑っている。
◆
「遊園地には、行きたくない」
このセリフを恋人に言うと、たいてい二通りの反応をされる。ホッとした顔か、残念そうな顔。
前者は大抵遊園地よりセックスが好きなタイプで、後者はセックスよりロマンスが好きなタイプだ。
あたしはどちらとも、乾いた距離を保ってしまう。ピエロの持つ風船のように、あっちにふらり、こっちにふらり。
「えぇ〜?楽しいよ?遊園地」
この人は後者。チケットの予約画面を見せてくる。
スマホの液晶をスクロールする指が回転して、反射する光はパレードみたいだ。
目が回ってきた。
あぁ、もう別れちゃおっかな。
◆
閉園前のメリーゴーラウンドは、閑散としていた。
あなたとあたし、ふたりだけ。
少し背伸びしたヒールに、小指が擦れて血が滲んでいた。でも、気にならなかった。
隣同士の木馬で、触れ合うこともできずに、
並んで回る距離が、今の距離みたいで。
「あ……」
出しかけた声は、世界に生まれる前に
喉の奥に消えてしまった。
メリーゴーラウンドのちゃちなメロディーが、終わらないよう願って、あたしは木馬にしがみついた。
メロディーが消えていく。
木馬から降りる。
心臓の音が聞こえるくらいの静寂が訪れた。
「……別れよう」
あなたから聞こえた声で、靴が片方脱げた。
拾ってくれる王子様は、もういない。
◆
いつか、再び行けるようになるんだろうか。
雨上がりの遊園地に。
メリーゴーラウンドから目を逸らさずに、誰かと同じ馬車に乗って。
目をつぶる。
ちゃちなメロディーが響いて、ピエロが笑う。
その時あたしは、ペタンコのスニーカーを履いている。
そしてそっと、靴紐を結び直す。
了

◆シロクマ文芸部
◆お題:目をつぶる
