【短編小説】「上司が詩人すぎる」
会議が始まるたび、うちの課長は詩を詠む。
今日もパワポを開いた瞬間に、あの低音が響いた。
「風よ、報告書を運べ。」
一同、静止。
マウスのクリック音すら止まる。
課長は真顔だ。
「えっと……はい、えー、先月の売上ですが――」
と、隣の先輩が勇気を出して続ける。
「数字たちは踊る、決算という名の舞踏会で。」
……うん、踊ってるのはあなたの言葉だけです。
心の中で全員がツッコむ。
だが、課長は本気だ。毎回。
昼休み、同僚たちはため息をつく。
「なんであの人、詩人にならなかったんだろうね」
「いや、なってるよ。たぶんサラリーマンの皮を被った詩人」
私は苦笑いしながら弁当の唐揚げをつつく。
最近、数字が思うように伸びない。
何をやっても報われない気がして、
プレゼン資料を開く手も、少しだけ重かった。
そんな時、課長がふとこちらを見た。
「焦らずともいい。成果は、冬の蕾のように時を待つのだ。」
……ちょっと泣きそうになるの、ずるい。
上司の言葉は、ポンコツなリズムで、心にだけ真っすぐ届く。
残業の夜、課長が帰り際にふとつぶやいた。
「このオフィスの灯りも、みんなの夢の名残りだね。」
私は思わず笑って、「課長、電気代です」と返した。
でも――消灯したあとの窓に映る自分の顔は、少し優しかった。
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