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【短編小説】「経理が忍者すぎる」

経理の山田さんは、気配がない。
気づけば経費申請が“承認されている”。

彼女はデジタル空間を駆ける忍者だ。
誰もその動きを追うことはできない。

「山田さん、経費申請間違えちゃって――」
「経費申請、差し戻しました。」
Teamsのチャットに、いつの間にかメッセージが届いている。
タイムスタンプは僕が申請した一分後。
はやすぎる……?

「領収書、インボイスが読み取れません。
 画像を再添付願います。」

その一文が、刃のように冷静で美しい。
AIですら見落とす細部を、山田さんは見逃さない。
彼女はすでにOCR(光学文字認識)を超えた存在だ。

別の日。
「この会議費、一人あたり五千円を超えています。」
「えっ……少し豪華なランチだっただけで……!」
「忍法・交際費見極めの術です。」

淡々とした口調に、恐怖と尊敬が同居する。
山田さんはすべての経費を把握している。
チャットを開く前に、“読まれている”気がするのだ。

残業の夜。
チャットの通知が小さく光った。
〈経費承認完了しました。お疲れさまでした〉
送信時刻、23:59:59。
まるで一日の締めを極めるような正確さ。


──その翌朝。
給湯室の僕のマグカップに、
“がんばれ新人くん☕️”とマジックで書かれたメモ。
隅に、小さな手裏剣のイラスト。

僕は思わず笑ってしまった。
山田さんは、やっぱり人間だった。
でもきっと、今日もどこかで
経費の乱れを、音もなく正している。



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