ダメな生徒でも覚醒する時はあります ~土方先生とエボナイト棒~
異常に算数が苦手でした。時速という概念が出てきたあたりからもうダメ。距離を時間で割る、というのがまったく理解不能。考えれば考えるほど奈落の底に落ちて行くような怖さがあります。そんなわけで小学校高学年以降、理系の科目は壊滅状態。
でも高校時代、土方先生が新しい世界を見せてくださいました。物理の先生です。
白髪頭の年配の先生で白衣&メガネ。少し動作がぎこちなかったので、口の悪い生徒は「サンダーバートの人形みたい」だと言って笑ってました。まあ昭和だったので。
でもいつも穏やかで楽しそうに、かつ冷静に授業を進める先生のことを、私は一味違うデキる大人だと思っていました。だって、鉄拳制裁で生徒を従わせる先生や、つまらない下ネタを授業で披露してウケを狙ったりするような先生がゴロゴロしてたから。特に進学校でもなかったし…まあ昭和だったので。
だから土方先生の授業は、時々は教科書にラクガキもせずに聞いてあげたりもしてました。いや「聞いてあげる」って失礼でしょ。
その授業で出てきたのがドップラー効果の話。
えっ音も波なんや!
救急車のあの音程の変化がそれで説明がつくんや!
私のハートは衝撃波に包まれました。波だけに。
真面目にノートも取るようになりました。今まで取ってなかったんかい。
そしてさらに追い打ちをかける出来事が。
物理の授業でエボナイト棒を帯電させて静電気を発生させる実験をするという企画。毛皮でエボナイト棒をこするヤツ。ちょっと面白そうだなーと生徒たちも期待している感じでワイワイガヤガヤ。で、一通り説明をした後、縞模様の毛皮に関して…
先生「これは猫の毛皮です」
生徒たち「……!」
そりゃ静まっちゃうよね。身近な動物だし猫を飼ってた子もいただろうし。こんな生々しいトラ猫柄の毛皮を見せられたらねえ…。そこで生徒たちの動揺を察知した先生は冷静ににっこりと…
先生「ああ…理科準備室には三毛もあるよ」
ちょっと不謹慎かもしれないけどみんなクスっと笑いました。私も笑いました。その時、確信した。先生は一味も二味も違うカッコイイ大人だと。
そんな単純な動機でますます私は物理の授業を真面目に受けるようになりました。
特に好きだったのがホイヘンス。やっぱり波動の人で途方もなく綺麗だったんッスよね。その頃の私は世界が波に見えるほど。世界が組み替えられた気がした。いや、まさしく組み替えられた。
先生のおかげで理系の科目なのに85点も取れちゃってびっくり。まあ正直たいしたことない成績なんですが、数学や化学がつねに5点~40点台だったことを思うと、私にとってはすっごい成功体験。
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…と。
こんな書き方してしまったら「これで理系の学問の楽しさに目覚めて受験戦争にも勝ち残って今はウハウハ(死語)です」みたいなオチを期待する人もいるかもしれないけど、残念ながら違います。ドップラーもホイヘンスもすっかり忘れちゃった底辺だし相変わらず算数(数字)は苦手なままだしね。人生そんなに上手くはいかない。
でも、土方先生は今でも好き。ありがとうと言いたかった。たぶん御本人の意図とは違う所で、私が勝手に感動したり尊敬したりしてたんだと思うけど、授業、ほんとうに楽しかったな。
今でも救急車のドップラー効果が聴こえるたびに、先生のことを思い出します。
※タイトル画はwikiのホイヘンスの項目の画像を加工したものです
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