ハチの巣駆除・・・からの さわキモキッチン(後編)
この時の経験から、息子に初めてふるまうハチの子料理は精選したサナギにしたのである。
サナギだけを選ぶのは、ただの贅沢ではない。
幼虫のように糞が残っていない分、味がクリアでクセがない。
そして味以上にイメージ的な部分が大きい。
初心者の息子に出すなら、まずは“入門編”から。
ハチの子料理は入門編が最もクリアで贅沢なのだ。
そして、私の思いやり愛情食材でもあるのだ。
まず、息子たちに集合をかける。
ところが長男は
「いや、俺は辞退。こんなに元気に動いているのを見ちゃうと、生きたまま焼くの見たくない。」
うーんなるほど。その感覚は確かに理解できる。
幼虫たちの多くは今も目の前で
「おなかすいたよー」
と、育房の壁を大あごでこすり、ガリガリやっている。
(※駆除した巣で遊ぶ理科教師 参照)
次男は
「これを食うの?」
と言いながらも手伝ってくれた。
アニサキスを克服したらハチの子は問題ないらしい。
(※「うまっ!」の魔力 参照)
まず、幼虫はピンセットでつまみだすだけなので、簡単に取り出せる。
取り出した幼虫は今回使用しないので、外にそのまま放置しておいた。
巣の処理が終わる頃には全てなくなっていた。
鳥たちには好評だったようだ。
問題はサナギの取り出しだ。
白い蓋を外すのだが、これが頑丈なのだ。
普通にピンセットで引っ張ってもはずれない。解剖用ハサミで切れ込みを入れ、ピンセットで引っ張るとようやく蓋がとれて中のサナギが顔を出す。
ここからがさらに厄介だ。
真っ白でしっかりして見えるのだが、実際はぶよぶよだ。
絹豆腐をピンセットでつまむようなものである。
慎重に取り出しても、何匹かは頭が取れたり、つぶれて白い液体が出たりする。
だが、今回は標本を作るわけではない。
最終的な行き先はフライパンなので、細かいことは気にしないことにした。
食材が整ったのでいよいよ調理開始。
まずフライパンでバターを溶かす。
そこへ取り出したコガタスズメバチのサナギを一括投入。
火が通ってくると、サナギの体がぷくーっと膨らみ始めるが、
すぐにプシューとしぼむ。

幼虫ほど皮が固くないので、ポンッとはじけたりしない。
全体がふくらんできたら醤油を少々。
火を止めて盛り付ければ完成である。
今回は新鮮なトマトを添え、勝手に
「ハチの子とトマトのカプレーゼ」

と命名してみた。
試食してみると、予想以上に旨い。
トマトの酸味とハチの子のコクがばっちり合う。
ハチの子初心者にもおすすめできる、さっぱり系の一品である。
長男は案の定、見た瞬間
「無理!」
どうやら形あるものが苦手なようだ。
確かにわからないでもない。サナギがトマトの上からこちらを見ている。
次回は長男用に、ミンチにして団子にして油で揚げてみよう。
次回のレシピが決まった。
栄養士の妻は、一口食べて満足したようだ。
やはり見た目がネックらしい。
次男は食卓のそんな空気感を感じながらもテレビに視線を奪われている。
茶碗を持ったままテレビに夢中になっているとは、なんと行儀悪い。
「成敗!」
盛り切れなかったハチの子を次男のご飯へ、こっそり投入した。

一瞬だけ動きが止まる。
しかしそのまま完食した。
私の息子に生まれてしまったという現実を、静かに受け入れ始めたようだ。
長男は都会的な人間の反応を示した。
次男は野性的な人間の反応を示した。
北海道で暮らしていると、長野県のような里山文化にはあまり縁がない。
しかしこの日の食卓には、どこか里山の空気が流れていた。
どうやら沢木家には、アーバンとネイティブが共生していたようだ。
