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わたしとイラスト今昔物語

小さいころからチラシの裏に絵を描くのが好きだった。家族や親戚のおじさんおばさんたちまで似顔絵を描いて、じょうずと言われてよろこんだ。

幼稚園のころ、ドラえもん、アンパンマン、ミッキーマウスが見なくても描けるようになった。
少女漫画にあごがれておじいちゃんにねだって買ってもらっていた。
自由帳に自分でも描いて、漫画家になりたいのがほのかな夢だった。

でもよく言う「学校でほかにうまい子がいたからやめた」…みたいなエピソードはない。早々に「漫画家は現実的じゃない」と子供ながらに思ったからだ。時間があれば描いて描きまくるなんてこともない。わたしの熱中はその程度。

それからは、とくに夢といえるものも、なりたい職業なんかもなかった。

小学校ではずっとエレクトーンを習っていて、エレクトーンの先生になりたいと言っていた。それもなんとなく、家族がそういうとよろこぶ気がしたから。
中学では吹奏楽をやって部長もやった。でもそこで音楽はやめた。

高校では授業の「芸術」で音楽、美術、書道の中からひとつを選ぶんだけど、書道にした。経験者しかほぼいない科目でなぜか未経験なのに選択。驚いたのか、ものすごくみんなやさしかった笑 最後に制作した「色紙に好きな和歌を書く」という作品。自分で桜を描いて、そこに和歌を書き満点をとった。経験者より高い成績だったことがちょっと自慢である。

あたりまえに、その先の進路は美術的なものでもない。まったくちがう大学に行き、就職した。

仕事は接客業だった。
何年かしたら、わたしはPOPや手書きチラシを自主的に作るようになった。それが楽しい。なによりも、目に見える効果がすさまじかった。自分が作ったPOPで確実に商品が売れた。
わたしの作ったチラシが全店に共有されたり、表彰もされた。1位になり賞金ももらった。
ある商品のメーカーの人は「誰にでもできることじゃない。才能ですよね」と言ってくれた。でも「まぁ…自分とこの商品が売れるんだからお世辞も言うわな」と思った。

手当てが出るわけでもない。他はできないわたしの役割なんだと思っていた。


そんな余裕もなくなって働きすぎた。
結局うつ病になってやめることになる。


働けなくなって、家で過ごす時間。

ふと、絵でも描いてみようかと思った。時間がありすぎて、何もかもいやになって、生きたくないと思ったあとのわたしが、そのとき選んだものは絵だった。

わたしのことを誰も知らない世界へ、発信してみたい気持ちになってインスタをはじめた。

デジタルで描いたことなんてない。紙に絵を描いて、スマホで写真をとって、アプリで読み込んで、なぞって、色をぬった。
レイヤーもなんにも知らない。初めてみる言葉ばかり。ひとつずつ調べながら描く。初めて投稿した絵は4時間かかった。

うつ病になったことをイラストにして発信したい。毎日描いては、写真をとって、なぞって、色をぬって。時間を忘れて描き続ける。いまのわたしじゃない自分になりたくて、かぶりものをかぶせ、それをりんごと名付けた。

りんごに自分のことばを代弁させながら、発信をする。共感をされ、よろこばれる。伝わっていることがうれしかった。生きててもいいのかも、と大げさだけど本気で思った。

わたしはいまでも話すことが、伝えることが苦手だ。それでもイラストで、りんごで伝えられる。

イラストがかわいい、すきだと言ってもらう。でもこの世界には絵が上手い人がたくさんいるから、わたしなんてと思うのだ。小さいころからずっと描き続けた人が山ほどいる。わたしはそこまでじゃないんだ。土俵がちがう。レベルがちがう。すみませんという気持ち。

それでも。

それでも。

それでも。


ただ「すきだった」ってことに最近気づく。いつから描いたとか関係ない。今日から描く人だっているんだ。上も下もない。たまたま聞く憧れのうまい人たちのセリフが「描き続けた」だっただけだ。


初めて絵を依頼してくれた方がいた。お金をいただいて初めて誰かのために描いた。

つい集めてしまうイラストの本、色の本、描き方の本はこの日のために残していたのだと思った。この色が合いそうだ、この顔を気に入ってくださるかもしれない、自分の中でピースが埋まる感覚がたまらなかった。

依頼してくださった方の希望へ近づけたい、期待に応えたい、がっかりされたくない、いいものを届けたい、よろこんでほしい、わたしにできる提案をいくつできるか。頭のなかで考えて、考えて、手を動かして、お風呂で浮かんでコレだ!と思い立ち上がる。
ああ、たのしい。

なんだか夢みたいだった。

からだの中にあったちいさな夢のかたまりがふくらんではじけるような感覚。

きっと忘れない。

このさきも描きたい。一生描きたい。もっとうまくなりたい。
望まれるなら、あなたのためにも描いてみたい。そしてなにより自分のすきなものをずっと描きたい。

そんな日々を過ごせたら。初めて言う、わたしの夢かもしれない。


初めて描いた4時間かかった絵


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