プラタナスの枯れ葉には何が書かれていたのか?
住宅街にぽつんとある、そこに客がいるのを見たこともない、いかがわしげなレンタルショップから、なんだか平べったい照明灯の光が派手に漏れ出していた。午前2時を回っているのに、その頃流行っていたプリンセス・プリンセスだったかの、なけなしの情を煽ってくるヒット曲がけっこうな音で流れていて、深夜の仕事を終えて痺れた身体に無理やりクスリを注入されるみたいで、ごめんよもういいよ、十分だと声に出して呟きもした。
明日をも知れぬ我が身っていうのは、ほんとうにあるんだよって、半月前まで付き合っていた彼女の涙の谷に頬をこすりつけて泣きべそをかくかわりに、しつこくそう言って聞かせてやりたかった。それが気分にふさわしかった。そうやって同情を勝ち取ってまたもや腐れ縁に、飽きもせず持ち込むのがおれの業なのに、しかしそれを実地でものす手管はあっという間に錆びついてしまった。
基次郎さんの檸檬の幻影を見たいと思ったって甲斐もなく、レンタルショップは、あの素敵な果物屋とは程遠くて、奥にいる店員は髪の毛が豪勢に金色に逆立ち、ああ、お前もかとおれは鼻白んだんだ。
なんていうことだ。取っておいたゴロワーズも中途からことごとく巻紙が折れて破れ、火をつけても煙も出ない。金もない。化繊のペラペラのコートのポケットには、「マルテの手記」と、24時間営業の立ち食いの、かき揚げそばを頼めるかどうだかの小銭。
おれはなんの物語の何ページ目にいた?
何ページ目でも、物語がなんであったって構わない。
おれは見つけたんだった。
今になって思い出した。
足元に吹かれてきたプラタナスのかさかさの枯れ葉に書かれた、見捨てられた杖のような7文字を。
砒素の毒か?万能のエリクサーか?古びた他愛もないありふれた成句か?
取り扱いにコツは必要だが、おれの手にかかればわけもない。
さはさりながら………
