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速度・色彩・香り:断片2026.1.14

カーラジオから聴いたことのない音楽が流れている。薄っぺらい打ち込みドラムのリズムが繰り返され、モノトーンのこれも平板な女声ボーカルが、愛について歌っていた。

棗が「嘘をついた」と葉嗣に告げたが、それは時速130kmで高速を走る彼の中のドーパミンが見させた幻影に過ぎなかった。

速度は現在を際限もなく拡大させて、過去も未来も取り込む。ラジオの癇に障る音楽も、ペインティングオイル、チョウジに似た棗の肌の匂いも、血の暗い赤も混じり合い、リアルは音と色と香りに分解されて幻影の中に流れ込んで一様な濃度になった。葉嗣の服が、棗とφが企んだ拷問めいた悪戯のせいでまだ濡れていて、地球の体液めいた潮の匂いをさせている、そのことだけが葉嗣の思考の拠り所だった。

猛烈な勢いで迫ってきては後方に飛んでいく分離帯の植栽に比して、海岸に沿った防砂林の樹々の頂が作る鋭角は融解しながら、幻燈のようにゆっくりと動いていく。葉嗣は棗とφとが肌を触れ合わせ溶け合っている時間が千々にほころびて、ただの色彩の破片になればいいと願っている自分に気付き、青いプジョーのアクセルを踏み込んだ。

高速を下りた。アパートに戻る気にならず、ð港に向けて車を走らせたが、途中見たこともない巨大な壁に突き当たって停車した。

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