手術中、外科医の頭の中はどうなっているのか
たまに聞かれる。
「手術中って、何を考えてるんですか」
正直に言うと、(私は)あまり余計なことは考えていない。常に不安な気持ちだ。
※人によります
うまくいって当たり前、という世の中で、求められるものが非常に高度だからだ。
考えていない、というのは適当という意味ではなくて、言葉にならない、という意味だ。
次に何をするか、どこを剥がすか、この膜は正しい層か——
万が一のトラブルシューティング。
それは考えているというより、手が先に動いていて、頭が後から確認しているような感覚に近い。
時間の感覚がおかしくなる。
「そろそろ1時間半くらいかな」と思って時計を見ると3時間経っていることもある。
逆に、たった10分の止血が永遠に感じられることもある。
不思議なのは、順調なときほど音が消えることだ。
よく音楽を流しながら手術している先生がいるが、ものすごく集中しているときなどは、まったく音楽など聴こえていない。
モニターのアラーム音も、器械の音も、外回りの看護師さんの声も、聞こえてはいるのに意識に上がってこない。
視野が術野の直径10cm程度に絞られて、そこだけが世界になる。
そして、これが怖いところなのだけれど——
危ないのは、うまくいっていないときではなく、うまくいっているときだ。
うまくいっていないときは、全身が警戒している。手が止まる。助手に声をかける。麻酔科の先生と目が合う。チーム全体が「今ここが山だ」と分かっている。
逆に、順調に剥がれて、出血もなくて、予定より早く進んでいるとき。あのときに、ふっと視野が狭くなる。「いつもの手順」に乗ってしまう。
だから私は、順調なときほど一度手を止めて、視野を引く。
カメラを引いてもらう。全体像を見る。「今どこにいるか」を言葉にして確認する。
そして、言語化。
これは一朝一夕では不可能。
相手のレベルに合わせて言い方を変える必要がある。
昔は、わからないと罵声やゲンコツなどが飛んできた。
今は一発アウトだろうけど。。
私自身も人にしたことはない。
されたことはたくさんあるが、、
そして、手術は絶対に一人ではできない。
これは謙遜ではなく、物理的に不可能という意味だ。
助手が視野を作ってくれなければ何も見えない。
器械出しの看護師さんが半歩先に器械を出してくれなければリズムが崩れる。
麻酔科の先生が全身を見ていてくれるから、私たちは10cmの世界に沈み込める。
何かの漫画の、身体が透明な世界、まさにあれだ。
フローになると、とても上手くいく。
ただし、私がオペに集中できるのは、
他の誰かが私の代わりに全体を見ていてくれるからだ。
手術がうまくいった日、私は自分が上手だったとはあまり思わない。
今日はチームのリズムが良かったな、と思う。
だいたいそれが真実に近い。
そして、ホッとする。
楽しい、という感覚はない。
もちろん、やりがいは感じている。
責任感、上手くいって当たり前。
大変な仕事だ。
でも、充実感はかけがえない。
慎重に 丁寧に 毎日こなしていく。
最近は週末の整体がかかせない。
あと何年やれるだろうか。。。
読んでいただき、ありがとうございました。
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