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【映画鑑賞 8番出口】ここから出たい

マウリス・ラヴェル作曲『ボレロ』。
フランスの音楽家ラヴェルが友人のロシア人バレリーナへ書いたとされる、スペイン風バレエ楽曲。一つの主題をくり返すのがこの楽曲の最大の特徴で、スネアドラムのリズムに合わせて管弦楽器が入れ替わりながら、徐々にハーモニーとなり、壮大なアンサンブルとなっていく。

そう、同じ主題をくり返すー何度も、何度も、何度も。 


同じところをぐるぐる回って迷った経験は、恐らく東京の地下鉄に乗ったことのある人なら、そう少なくないだろう。

あれ、さっきもここ通った気がする..

◯番出口と書かれて矢印が出ている方向へ向かっているはずなのに、一向に辿り着かない。だんだん心がザワザワと不穏な音をたて始める。果たして約束の時間に間に合うのか。

"出口はどこなんだ"


目指すは出口。別れた恋人から突然妊娠の知らせを聞き、彼女のいる病院へ向かう主人公、"迷った男"。電話越しに、明らかに動揺する元恋人の声。男の思考も出口を探して迷い始める。
どうしたらいい。
わからない。
わからない。
とにかく今は病院へ行くんだー出口は?出口はどこだ? 

"8番出口" と書かれた黄色に光る頭上のサイン。
地下道を歩いて行くと、"0番出口"のサインが見える。まだここは0なのかと進んで行くと、向かい側から白シャツにグレーのスラックス、手に鞄を持ってこちらへ歩いてくる無表情の細身のおじさんとすれ違う。

進んで行くと、"1番出口"のサイン。正しい方向へ進んでいると思ったのも束の間。角を曲がって通路に出ると、"8番出口"のサインの下、向こうからこちらへ歩いてくる人ー
え?あの人さっきもすれ違わなかったっけ?
理解が追いつかないままとりあえず先へ進む。コインロッカーにゴミ箱。証明写真機。これもさっき通り過ぎた"気がする"。 

角を曲がって、期待した"2番出口"のサイン。

ちがう。

あったのは"2番出口"の代わりに、"0番出口"のサイン。
なんでだよ!なんで0に戻ってんだよ!
どうなってんだよ!
思考が追いつかない。出口を目指しているのに、出られない。ぐるぐる同じところを歩いているだけだー
そんな時、ふと駅構内にある「ご案内」に目を留める。そこに書かれた奇妙な条件ー

異変を見逃さないこと
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
異変が見つからなかったら、引き返さないこと
8番出口から外に出ること

【異変】て何なんだ?



出口を見つけた時と、答えを見つけた時の安堵感はどこか似ている。
答えを出そうとして見つからない時というのは、あぁでもないこうでもない、とまるで同じ場所をぐるぐる歩き回っているような感覚に陥る。
いつになったら答えは見つかる?どちらへ行けばいい?
そんな絶望と希望を行ったり来たりしながら、私たちは呼吸しながら、生きるというゲームを続けなければならない。

私の6歳の娘は、算数の問題を解こうとして必ず頭を抱える。
全然わかんない!とパニックになるので、
一つずつ順番にやっていこうね、と数字をりんごに書き換えさせてみる。
「スーパーへお買い物に行きました。りんご5個をAマートで買い、りんご6個をBマーケットで買いました。買ったりんごの数は全部で何個ですか?」
ただの数字をりんごという身近な物に置き換えるヒントを出したことで、娘は1個、2個、とりんごを数え始め、最終的に11という答えに行きつくことができた。

”8番出口”に出るというのは、そこが最終目標というわけではない。
出口から出て元恋人のいる病院へ行くーそれが次のステージ。
その後二人がどうするのかは、またさらに次のステージ。
”0番出口”から始まり”8番出口”へ一つずクリアしていったように、もどかしくても、結局はそれが一番確実な近道なのかもしれない。
そして必ずいつも近くに、負のループから抜け出すためのヒントがあるはずだ。


『ボレロ』がいつの頃からか、ものすごく好きなクラシック音楽の中の一曲だった。オーケストラは様々な楽器の音が層になることで一体感を生み、壮大なスケールになるのが醍醐味なのだと思うが、『ボレロ』に関しては序盤は各管楽器のソロパート。純粋に楽器の音が堪能できる分、ごまかしが一切効かない。ごはん屋さんで添加物を混ぜていない定食をいただくような感じだ。

同じ地下道をループする不安さを助長させる、一定のリズムとくり返す主題。奇妙な世界に入り込んだ”迷った男”は果たして”8番出口”から外へと出ることができるのか。そして元恋人のもとへ向かうことができるのか。
迷った末に男が出した答えとはー

もう一度一人で静かに奇妙な世界を味わいたい。
冷房の効きすぎた映画館と、度々話しかけてきた娘を除いて。










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