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タワー・オブ・テラーは“落ちるだけ”じゃない。ホテルハイタワーが怖い本当の理由


東京ディズニーシーの《タワー・オブ・テラー》と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは「落下の怖さ」だと思います。

高いところから急に落ちる。
身体がふわっと浮く。
暗い。
音が大きい。
何が起こるかわからない。

たしかに、あの落下は怖いです。

でも、ホテルハイタワーの恐怖は、エレベーターが動き出してから始まるものではありません。

アメリカンウォーターフロントを歩いていて、あの異様な建物が視界に入る。
空に向かって突き出すような外観を見上げる。
古びたホテルの入口へ近づいていく。
そして、自分が「閉鎖されたホテルの見学ツアー」に参加しようとしていることに気づく。

その時点で、もう物語は始まっています。

《タワー・オブ・テラー》の怖さは、落下だけではありません。

ホテルハイタワーという場所。
ハリソン・ハイタワー三世という人物。
シリキ・ウトゥンドゥという偶像。
そして、かつて起きた失踪事件。

それらを知ってからこのアトラクションを体験すると、怖さの種類が少し変わります。

今回は、まず「そもそもタワー・オブ・テラーとは何なのか」から整理していきます。
そのうえで、ハイタワー三世、シリキ・ウトゥンドゥ、そしてこの場所がなぜ怖く感じられるのかを読み解いていきます。


そもそもタワー・オブ・テラーとはなんなのか

画像はオフィシャルサイトより

東京ディズニーシーのアメリカンウォーターフロント。
ニューヨークの街並みの中で、ひときわ目を引く巨大な建物があります。

それが、ホテルハイタワーです。

かつてこのホテルは、ニューヨークの街に栄華を誇る場所でした。
開業したのは1892年。
その主は、大富豪であり探険家でもあるハリソン・ハイタワー三世。

ホテルハイタワーは、ただ人を泊めるためのホテルではありませんでした。

そこは、ハイタワー三世の富と権力を示す場所でした。
世界中から集められた品々が収められ、さまざまな建築様式が取り込まれ、増築を重ねながら、独特な姿へと変わっていきました。

ホテルでありながら、そこには主の趣味が濃く残っています。

ロビーは、もともと「大邸宅」と呼ばれていた場所。
そこには、ハイタワー三世が暮らしていた気配が残っています。

頭上には、彼の力を誇示するようなステンドグラス。
壁には、世界中から集めたコレクションにまつわる物語を描いた壁画。
ホテルの奥には、秘密の倉庫。
その倉庫には、世界各地から持ち帰られた品々が収められています。

さらに、その床には開け放たれた鉄製の跳ね上げ戸があります。
その下には地下通路が続いています。

かつてハイタワー三世は、ニューヨークの港に到着した大きな美術工芸品を、この地下通路からホテルへ運び入れていました。
トロッコに積み、巻き上げ機と鎖を使って、建物の奥へと引き込んでいたのです。

けれど、その地下通路は現在、浸水しています。
詳しい構造は、今ではわかっていません。

ホテルハイタワーは、ただ豪華なホテルではありません。

光り輝く社交の場でありながら、奥には秘密の倉庫があり、地下には見えない通路があり、世界中から集められた品々が眠っている。

表の顔と、裏の顔。
華やかさと、不穏さ。

その両方を持った場所です。

しかし、1899年の大みそか。
ホテルの主であるハリソン・ハイタワー三世が、謎の失踪を遂げます。

その事件をきっかけに、ホテルハイタワーは閉鎖されました。
そして人々は、その場所を「タワー・オブ・テラー」と呼ぶようになります。

恐怖のホテル。

それが、ホテルハイタワーに与えられた新しい名前でした。

現在、その閉ざされたホテルでは、ニューヨーク市保存協会による見学ツアーが行われています。

参加者は、ホテルの中を進み、かつての主の痕跡をたどり、業務用エレベーターで最上階へ向かいます。

目的地は、ハイタワー三世の部屋。

そこへ向かう道のりは、単なるアトラクションの待ち列ではありません。
閉鎖されたホテルの中へ入り、過去の事件へ少しずつ近づいていく見学順路です。

ハイタワー三世とは

ハリソン・ハイタワー3世

ハリソン・ハイタワー三世。

ホテルハイタワーの主であり、創立者。
大富豪であり、探険家。
そして、世界の文化的遺産を熱狂的に集めた収集家。

彼はただのホテル経営者ではありませんでした。

世界へ向かい、珍しいものを手に入れ、それをニューヨークへ持ち帰る。
集めたものを自分のホテルに収め、人々に見せる。
その行為そのものが、彼の力を示していました。

ホテルハイタワーは、彼の持ち物であると同時に、彼自身を表す場所でもありました。

建物の外観には、世界中の建築様式が取り込まれています。
整った美しさというよりも、さまざまな要素が積み重なり、押し込められ、増築を重ねたような姿をしています。

その建物の側面には、特徴的な張り出し部分があります。

かつて、その形は「ハンマー」を連想させるためだと言われていました。
あらゆるものを打ち砕くことのできるハンマー。
ハイタワー三世という人物を思えば、いかにも似合う説明です。

けれど、張り出し部分が造られた理由は、もっと彼らしいものでした。

建物がほとんど完成してから、ハイタワー三世は自分の部屋を拡張したくなります。
そのために、部屋の端を外側へ張り出させることになりました。
建物がアンバランスにならないよう、反対側にも同じような張り出しが加えられました。

つまり、ホテルの形そのものが、彼の都合によって変えられているのです。

普通、ホテルは客を迎えるために設計されます。

けれどホテルハイタワーは、どこか違います。

客を迎える場所でありながら、主の力を見せつける場所。
人を休ませる建物でありながら、持ち主の欲望を刻み込んだ建物。
世界中から集めたものを並べ、所有し、支配し、見せるための場所。

ロビーに入れば、彼の力を誇示するようなステンドグラスが見上げる者を迎えます。
壁画には、彼の探険と収集の物語が描かれています。
インテリアにも、彼自身の趣味が色濃く反映されています。

ハイタワー三世は、失踪しました。

けれど、ホテルハイタワーから完全に消えたわけではありません。

彼の姿はそこにありません。
でも、彼の痕跡はあまりにも多く残っています。

建物の形に。
ロビーの装飾に。
収集品に。
秘密の倉庫に。
地下通路に。
そして、最上階の部屋に。

ホテルハイタワーは、彼がいなくなったあとも、彼の存在を語り続けています。

シリキ・ウトゥンドゥとは

画像中央がシリキ・ウトゥンドゥ

ハイタワー三世の物語を語るうえで、避けて通れない存在があります。

シリキ・ウトゥンドゥです。

1899年の大みそか。
ハイタワー三世は、記者会見の直後に失踪します。

その直前、ある目撃者は、彼がシリキ・ウトゥンドゥを抱えて、ボールルームのホワイエからエレベーターに乗り込む姿を見たと語っています。

シリキ・ウトゥンドゥは、ハイタワー三世が新たに手に入れた品々の中でも、特別な存在として残されています。

ホテルの1階、秘密の倉庫の入口近くには、ハイタワー三世が新しく入手した美術工芸品の写真を撮ったり、記録したりするための部屋がありました。
そこには、シリキ・ウトゥンドゥの写真も残されています。

ハイタワー三世は、世界中から文化的遺産を集めていました。

遠い土地へ行き、珍しいものを持ち帰り、自分のホテルの中へ収める。
それは彼にとって、冒険の成果であり、財力の証であり、自分の人生を飾る勲章のようなものだったのかもしれません。

ホテルの奥にある秘密の倉庫には、世界中から持ち帰られたコレクションが収められています。
まだ開封されていない木箱もあります。
どこから来たのか、何のために運ばれたのか、すぐにはわからない品々が、ホテルの奥に眠っています。

その中で、シリキ・ウトゥンドゥはただの収集品では終わりません。

ハイタワー三世が失踪する直前、彼の腕の中にあったとされる偶像。
写真として記録され、ホテルの中に痕跡を残す存在。
そして、ホテルハイタワーの謎と深く結びついた存在。

ハイタワー三世は、世界を集めようとした人物でした。

文化的遺産を持ち帰り、ホテルに収め、自分の物語の一部にしていく。
世界を旅し、手に入れ、並べ、見せる。

その彼の物語の中に、シリキ・ウトゥンドゥは現れます。

持ち帰られたもの。
記録されたもの。
所有されたはずのもの。

けれど、その存在は、彼の思い通りに収まったようには見えません。

シリキ・ウトゥンドゥは、ハイタワー三世の収集品のひとつでありながら、彼の失踪と切り離せない存在としてホテルに残りました。

ここに、この偶像の不気味さがあります。

それは単に、見た目が怖いからではありません。

ハイタワー三世が築いた世界の中で、彼自身の物語を変えてしまった存在として見えるからです。

それらを踏まえて、このアトラクションが怖い理由

ここからは、BGS予習室としての考察です。

《タワー・オブ・テラー》の怖さは、落下の瞬間だけにあるわけではないと思います。

もちろん、ライドとしてのスリルは大きな魅力です。
暗闇、音、急な動き、高さ。
身体が反応する怖さは確かにあります。

でも、BGSを踏まえると、その怖さの根っこはもっと前から育っています。

まず怖いのは、ホテルハイタワーという場所そのものです。

ここは、最初から廃墟だったわけではありません。
かつては栄華を極めたホテルでした。
ハリソン・ハイタワー三世の富と権力を象徴する場所でした。

だからこそ、閉鎖されたあとの空気が重く感じられます。

ただの古い建物ではなく、かつて人が集まり、富が集まり、世界中から持ち帰られた品々が集まった場所。
その中心にいた人物が、ある夜、謎の失踪を遂げた。

輝いていた場所だからこそ、失われたあとの空白が目立つ。

ここに、ホテルハイタワーの怖さがあります。

次に怖いのは、ハイタワー三世の存在感です。

彼は失踪しています。
けれど、ホテルの中から消えていません。

ロビーのステンドグラス。
壁画。
インテリア。
収集品。
張り出した建物の形。
最上階の部屋。

そこには、彼の趣味や欲望や自己顕示が、まだ残っているように見えます。

本人はいない。
でも、痕跡が多すぎる。

この「不在なのに、存在感だけが残っている」という状態が、とても不気味です。

さらに怖いのは、見学ツアーという形式です。

見学ツアーという言葉には、本来、安全な響きがあります。

保存された建物を見て回る。
歴史を知る。
案内に従って順路を進む。
管理された範囲で、貴重な場所を見学する。

けれど、ホテルハイタワーの見学ツアーで進んでいくのは、失踪事件をきっかけに閉鎖されたホテルです。

ロビーを抜け、秘密の倉庫へ近づき、地下通路の存在を知り、業務用エレベーターで最上階へ向かう。

安全に見える形式のまま、少しずつ危うい場所へ入っていく。

ここに、じわじわした怖さがあります。

怖い場所へ無理やり連れていかれるのではありません。

見学者として、自分の足でホテルの奥へ進んでいく。
説明を聞き、建物を見て、収集品を目にしながら、過去の事件に近づいていく。

そして最後に、エレベーターがあります。

かつてハイタワー三世がシリキ・ウトゥンドゥを抱えて乗り込んだとされるエレベーター。
現在の見学ツアーで、ゲストが最上階へ向かうために乗るエレベーター。

過去の出来事と、今の体験がそこで重なります。

だから、落下はただの落下ではなくなります。

高いところから落ちる怖さに、ホテルの歴史、ハイタワー三世の不在、シリキ・ウトゥンドゥの存在、1899年の大みそかの記憶が重なってくる。

身体が落ちる前に、物語の中へ引き込まれている。

それが、《タワー・オブ・テラー》の本当の怖さだと思います。

次にどう捉えるか

次に《タワー・オブ・テラー》へ行くときは、ぜひ少し離れた場所からホテルハイタワーを見上げてみてください。

「あ、怖い建物だな」

それだけでも十分です。

でも、そこにハイタワー三世という人物を重ねると、見え方が変わります。

この建物は、彼の富と権力の象徴だった。
世界中から集めたものを収める場所だった。
客を迎えるホテルでありながら、彼自身の趣味と欲望が刻まれた場所だった。

そう思って見上げると、ホテルの豪華さが少し不穏に見えてきます。

入口へ向かうときは、自分が「閉鎖されたホテルの見学ツアー」に参加していることを意識してみてください。

遊園地の乗り物に向かっている、というよりも、かつて事件のあったホテルへ足を踏み入れる。
その奥に残されたものを見に行く。
最上階にある、失踪した主の部屋へ向かう。

そう考えると、待ち時間の意味が少し変わります。

ただ順番を待っている時間ではなく、ホテルの内側へ少しずつ入っていく時間になります。

ロビーでは、装飾を見てみてください。

その空間は、宿泊客を穏やかに迎えるだけの場所ではありません。

ハイタワー三世が何を集め、何を誇り、何を見せたかったのか。
その痕跡が、あちこちに残っています。

そして、シリキ・ウトゥンドゥを「怖いキャラクター」としてだけ見ないこと。

シリキは、ハイタワー三世が集めたもののひとつでありながら、彼の失踪と深く結びついた存在です。
所有されたはずのものが、所有者の物語を変えてしまう。
そう考えると、あの偶像の存在感はさらに大きくなります。

《タワー・オブ・テラー》は、落下のスリルだけでも楽しいアトラクションです。

でも、ホテルハイタワーの歴史を知り、ハイタワー三世の人物像を追い、シリキ・ウトゥンドゥの存在を意識すると、恐怖の質が変わります。

怖いのは、ただ落ちるからではありません。

かつて栄華を極めた場所が閉ざされていること。
失踪した人物の痕跡が、今もホテルの中に残っていること。
見学ツアーという安全そうな形で、過去の事件へ近づいていくこと。
そして、過去に起きた出来事と同じように、エレベーターで最上階へ向かうこと。

そのすべてが重なったとき、《タワー・オブ・テラー》は「落ちるアトラクション」ではなくなります。

閉鎖されたホテルに入り、主の痕跡をたどり、1899年の大みそかに起きた謎へ近づいていく体験になります。

次にホテルハイタワーを見上げるときは、ぜひ思い出してみてください。

恐怖は、エレベーターが動き出してから始まるのではありません。

あのホテルを見上げた瞬間から、もう静かに始まっています。

次回予告

次回は、ホテルハイタワーが建つエリア、アメリカンウォーターフロントを取り上げます。

なぜあの場所は、歩いているだけで「昔のニューヨークに来たような気分」になるのか。

S.S.コロンビア号、ホテルハイタワー、港、劇場、新聞社、街並み。
エリア全体をひとつの物語として読んでいきます。

よければ、次回も読んでください。

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