ネモ船長とは何者なのか。ミステリアスアイランドに姿を見せない天才科学者
東京ディズニーシーのミステリアスアイランドには、ひとりの人物の気配が満ちています。
けれど、その人物は簡単には姿を見せません。
名前は何度も出てくる。
発明品もある。
研究所もある。
潜水艦もある。
クルーたちも働いている。
島のいたるところに、その頭文字である「N」が刻まれている。
それなのに、本人はそこにいない。
その人物こそ、ネモ船長です。
ミステリアスアイランドは、ネモ船長の世界です。
プロメテウス火山の内部に隠された科学研究所。
カルデラ湖に浮かぶノーチラス号。
地下800メートルへ向かうテラヴェーター。
地底世界を走る地底走行車。
深海探索へ向かう小型潜水艇。
クルーたちが交わす「モビリス!」という挨拶。
そのすべてが、ネモ船長という人物の存在を示しています。
でも、なぜ彼は姿を見せないのでしょうか。
なぜ、火山の内部に研究所を築いたのでしょうか。
なぜ、地底と海底という、人間が簡単には近づけない世界を研究しているのでしょうか。
なぜ、どこの国にも属さず、どんな旗にも忠誠を誓わないのでしょうか。
今回は、ネモ船長を「ミステリアスアイランドに姿を見せない天才科学者」として読んでいきます。
ネモ船長は、ミステリアスアイランドの中心にいる

ミステリアスアイランドに入ると、空気が変わります。
明るい港町でも、にぎやかなニューヨークでも、静かなケープコッドでもありません。
ここには、火山の熱と、金属の冷たさがあります。
岩壁。
噴気。
カルデラ湖。
金属の通路。
機械音。
水面に浮かぶ潜水艦。
奥へ続く洞窟。
この場所は、自然の力と科学の力がぶつかり合っているように見えます。
その中心にいるのが、ネモ船長です。
彼は、この島に科学研究所を築きました。
しかも、ただの研究所ではありません。
活火山の内部です。
普通なら、人が研究所を作る場所としては危険すぎるかもしれません。
火山ガスが噴き出し、溶岩の熱があり、地面の奥では巨大なエネルギーが動いている。
けれど、ネモ船長にとっては、その危険ささえ研究の一部だったのかもしれません。
火山のエネルギー。
海底へつながるカルデラ湖。
地底へ続く洞窟。
外の世界から隔てられた地形。
この島は、彼にとって理想の秘密基地でした。
外から見れば、ただの火山島。
しかし、その内部には、地底と海底へ向かうための研究施設が隠されている。
ミステリアスアイランドは、まさにネモ船長の頭脳が形になった場所なのだと思います。
「ネモ」という名前の意味

ネモ船長を考えるうえで、まず印象的なのが名前です。
「ネモ」という言葉には、「誰でもない」という意味があります。
この名前は、彼という人物をとてもよく表しているように感じます。
誰でもない。
それは、単に正体不明という意味だけではありません。
どこの国にも属さない。
どんな旗にも忠誠を誓わない。
どの権力にも従わない。
誰かに名乗らされる名前ではなく、自分で選んだ生き方を持っている。
ネモ船長は、国家や社会の枠の外にいる人物です。
彼は、どこかの国の科学者ではありません。
どこかの軍に所属する技術者でもありません。
どこかの政府のために働く発明家でもありません。
彼は、自分自身の正義に従って生きています。
この「誰でもない」という立場が、ネモ船長をとても謎めいた存在にしています。
普通、人はどこかに属します。
国。
組織。
家族。
職場。
肩書き。
名前。
でも、ネモ船長はその外側に立っている。
だから自由です。
けれど、その自由は明るく軽いものではありません。
どこにも属さないということは、誰にも守られないということでもあります。
誰にも従わないということは、すべての責任を自分で負うということでもあります。
ネモ船長の孤高さは、そこから来ているのかもしれません。
彼は自由であり、孤独です。
なぜ火山島に研究所を隠したのか
ネモ船長は、自分の科学研究所を南太平洋の火山島に隠しました。
この設定が、とても重要です。
研究所は、街の中にありません。
大学にも、企業にも、国家機関にもありません。
人々が簡単に訪れられる場所ではなく、海図にもないような火山島の内部にあります。
なぜ、そんな場所に研究所を作ったのでしょうか。
ひとつには、外の世界から距離を置くためだったのだと思います。
ネモ船長は、長いあいだ外界との接触を断っていました。
彼の研究は、普通の社会の中で行えるものではなかったのかもしれません。
地底へ潜る技術。
海底へ向かう潜水艦。
特殊な発電。
無線で電力を送る仕組み。
人類の科学を超えるような発明品。
それらは、誰かの利益や権力のために使われれば危険にもなり得ます。
だから彼は、自分の研究を外の世界から遠ざけた。
誰にも奪われない場所。
誰にも命令されない場所。
誰にも干渉されない場所。
そのために、火山島は都合がよかったのでしょう。
けれど、彼は完全に世界を閉ざしたわけではありません。
やがて彼は、自分の発見を選ばれた一部の科学者や研究者たちと共有しようとします。
ここに、ネモ船長の複雑さがあります。
彼は秘密主義です。
でも、発見を独り占めしたいだけの人物ではない。
彼は外界を拒みます。
でも、未知の世界を理解できる者たちには、その扉を開こうとする。
閉ざすことと、見せること。
その両方が、ネモ船長の中にあります。
ネモ船長は、何を発明したのか

ネモ船長の存在感は、彼の発明品によって強く感じられます。
まず、ノーチラス号。
ミステリアスアイランドの水面に浮かぶ、頑丈な鉄製の潜水艦です。
この潜水艦は、ネモ船長自身が海底探険に使用したもの。
高い強度を持ち、艦内での自給自足も可能とし、人類の科学を超えるような特殊な自家発電によって推進力を得ています。
そして、ネモ船長と彼の部下だけしか乗船を許されていません。
この「許されていない」という感じが、いいですよね。
ノーチラス号は、誰でも乗れる船ではありません。
ネモ船長の思想と技術が詰まった、彼の城のような存在です。
さらに、小型潜水艇ネプチューン号があります。
ガントリークレーンから吊り下げられた、ネモ船長専用の小型潜水艇。
海底探査のために使われる乗り物です。
海底へ向かうためのノーチラス号。
さらに細かい調査へ向かうネプチューン号。
そして、志願クルーが乗り込む小型潜水艇。
ネモ船長の世界では、海底へ行くことが夢物語ではなく、実際の任務として準備されています。
さらに、空にも目が向けられています。
ミステリアスアイランドには、ネモ船長専用の飛行機アルバトロス号の着陸ポイントがあります。
地底。
海底。
そして空。
ネモ船長の興味は、地上の一地点にとどまりません。
人間がまだ自由に進めない場所。
人間がまだ知り尽くしていない場所。
地球の奥深く、海の底、空の向こう。
彼は、境界を越えようとする人物です。
地底と海底へ向かう理由
ネモ船長の研究には、ひとつの方向性があります。
それは、見えない場所へ向かうことです。
明るい地上ではありません。
人が暮らす街でもありません。
地図に描かれた場所でもありません。
彼が向かうのは、地底と海底です。
《センター・オブ・ジ・アース》では、彼が発見した地底世界へ向かいました。
地下800メートル。
テラヴェーターで降り、地底走行車に乗り込む。
美しく神秘的な地底世界を進んでいく。
しかし、未知の領域には予期せぬ危険が待っている。
《海底2万マイル》では、ネモ船長の志願クルーとして深海探索の任務に参加しました。
サーチライト付きの小型潜水艇に乗り、暗い海底へ潜る。
アトランティス大陸の謎を追い、沈没船や水中農園、未知の生物の気配に出会う。
どちらも、下へ向かう物語です。
空へ広がるソアリンとは対照的です。
ソアリンは、空を飛び、世界を広く見渡す体験でした。
一方で、ネモ船長の世界は、深く潜っていく体験です。
下へ。
奥へ。
暗い方へ。
まだ見えていない場所へ。
この方向性が、ネモ船長という人物を象徴しているように思います。
彼は、わかりやすく輝いている場所には向かわない。
誰も見ていない場所。
誰も知らない場所。
危険で、暗くて、普通なら近づかない場所。
そこにこそ、真実や発見があると信じているのかもしれません。
「モビリス・イン・モビリ」という思想
ミステリアスアイランドには、特別な挨拶があります。
「モビリス!」
そして返すときは、「モビリ!」
この挨拶のもとにあるのが、ネモ船長のモットーです。
「モビリス・イン・モビリ」
意味は、「変化をもって変化する」。
この言葉は、ネモ船長の思想そのもののように感じます。
世界は変化する。
自然も変化する。
海も、火山も、地底も、時代も、人間社会も変化する。
ならば、自分も変化しなければならない。
固定された場所にとどまるのではなく、状況に合わせて姿を変える。
常識に縛られるのではなく、未知に応じて方法を変える。
既存の世界に従うのではなく、変化そのものを力にする。
ネモ船長の発明品は、まさにその思想を形にしたものだと思います。
地上を進めないなら、地底へ。
海面だけでは足りないなら、海底へ。
船だけでは足りないなら、潜水艦へ。
電線が届かないなら、無線送電へ。
人間の限界があるなら、機械でそれを越える。
変化する世界に、変化で応える。
それが、ネモ船長の科学なのだと思います。
このモットーを知ると、ミステリアスアイランドの見え方が変わります。
あの場所は、ただレトロな機械が並ぶ秘密基地ではありません。
変化し続ける世界に対して、ネモ船長が科学で挑み続ける場所なのです。
なぜネモ船長は姿を見せないのか
ここからは、BGS予習室としての考察です。
ネモ船長の魅力は、何よりも「姿を見せないこと」にあると思います。
ミステリアスアイランドには、彼の痕跡が多すぎるほど残っています。
ノーチラス号。
ネプチューン号。
アルバトロス号の着陸ポイント。
科学研究所。
地熱発電所。
無線送電。
地底走行車。
小型潜水艇。
「N」の印。
クルーたちの挨拶。
これだけのものがあるのに、本人はそこにいない。
でも、いないからこそ強い。
もしネモ船長がいつでも目の前に現れて、すべてを説明してくれたら、ミステリアスアイランドの謎はかなり減ってしまうと思います。
彼が何を考えているのか。
なぜ外界を断ったのか。
なぜ一部の人々には研究成果を見せることにしたのか。
どこまで危険を把握しているのか。
自分の発明が世界をどう変えると思っているのか。
それらが、完全には語られない。
だから、想像したくなる。
ネモ船長の不在は、空白ではありません。
むしろ、想像の余地です。
タワー・オブ・テラーのハイタワー三世も、本人はいないのにホテル中に痕跡を残していました。
ソアリンのカメリア・ファルコも、姿はなくても夢と記憶を博物館に残していました。
ネモ船長も同じです。
ただし、彼の不在には独特の緊張感があります。
ハイタワー三世の不在は、不穏。
カメリアの不在は、あたたかい余韻。
ネモ船長の不在は、畏れ。
彼がいないことで、島全体が彼の存在をより強く語っているのです。
ネモ船長は善人なのか、危険人物なのか
ネモ船長を考えるとき、簡単に「いい人」と言い切れないところも魅力だと思います。
彼は天才です。
人類の科学を超えるような発明品を生み出し、地底と海底の研究を進め、世界中の科学者や研究者を未知の世界へ招きます。
その一方で、彼は孤高です。
どこの国にも属さない。
どんな旗にも忠誠を誓わない。
自分自身の正義に従っている。
これは、とてもかっこいい。
でも同時に、少し危うい。
誰にも従わないということは、誰にも止められないということでもあります。
巨大な発明品。
特殊なエネルギー。
深海へ潜る技術。
地底へ進む技術。
火山内部に築かれた秘密基地。
それらを持つ人物が、どこの国家にも属していない。
これは、自由であると同時に、とても危険な状態でもあります。
ネモ船長は、わかりやすいヒーローではありません。
正義のために戦う人物でありながら、その正義は社会のルールとは必ずしも一致しない。
科学の進歩を信じている人物でありながら、その科学は未知の危険を引き寄せる。
人類に発見をもたらす人物でありながら、完全には人々の前に立たない。
だからこそ、惹かれるのだと思います。
明るく説明しきれる人物ではない。
善と危険。
自由と孤独。
発見と秘密。
科学と畏れ。
その全部を抱えているから、ネモ船長はミステリアスアイランドにふさわしい人物なのです。
ネモ船長の世界は、なぜ今も古びないのか
ネモ船長の世界には、19世紀のレトロフューチャーな魅力があります。
金属の機械。
歯車。
蒸気。
潜水艦。
探険装置。
研究室。
岩壁の中に築かれた基地。
現代的なテクノロジーとは違います。
もっと重く、もっと物質的で、もっと手触りがあります。
ボタンひとつですべてが動く未来ではなく、巨大な機械が唸り、熱を持ち、音を立てながら動く未来。
そこには、「人間が機械を作り、未知の世界へ挑む」という実感があります。
だから、ネモ船長の世界は古びないのだと思います。
最新技術の見た目は、時間が経つと古くなることがあります。
でも、ネモ船長の世界は「昔の人が想像した未来」です。
そこには、ただ便利になった世界ではなく、未来を夢見た人間の熱があります。
地底へ行きたい。
海底へ潜りたい。
空へ飛びたい。
未知の世界を見たい。
自然の力を理解したい。
世界を変えたい。
その欲望が、機械の形をして残っている。
だから、ミステリアスアイランドを歩くとワクワクするのだと思います。
ここには、スマートで清潔な未来ではなく、危険で、重くて、熱を帯びた未来があります。
ネモ船長の科学は、きれいに整った展示物ではありません。
まだ動いている研究です。
だから、怖い。
だから、魅力的です。
次にどう捉えるか
次にミステリアスアイランドへ行くときは、ぜひ「ネモ船長本人はいないのに、どこに存在を感じるか」を探してみてください。
まず、プロメテウス火山。
あの火山は、ただの背景ではありません。
その内部に、ネモ船長の研究所があります。
火山の熱や地形そのものが、彼の研究の一部です。
次に、カルデラ湖。
水面にはノーチラス号が浮かんでいます。
泡が立っていれば、クルーたちが出発の準備をしているようにも見えます。
ただの展示物ではなく、今も動いている潜水艦として見てみると、印象が変わります。
そして、「N」の印。
ミステリアスアイランドでは、さまざまな場所にネモ船長の頭文字が見えます。
それは、彼がそこにいないのに、この島全体を支配していることを示す印のようです。
《センター・オブ・ジ・アース》へ行くときは、地底走行車に乗る前から物語が始まっていると考えてみてください。
ここは、ネモ船長が発見した地底世界を見学する場所です。
テラヴェーターで地下800メートルへ降りる時間は、地上の世界からネモ船長の研究領域へ入っていく時間です。
《海底2万マイル》へ行くときは、志願クルーとして任務に参加しているつもりで見てみてください。
小型潜水艇。
サーチライト。
潜水服。
深度計。
アトランティス大陸の謎。
それらは、ただの演出ではなく、ネモ船長の海底研究に加わるための道具です。
最後に、ヴォルケイニア・レストランやノーチラスギフトにも注目してみてください。
ミステリアスアイランドでは、食事をする場所やショップでさえ、ネモ船長の研究基地の一部としてつながっています。
科学研究所。
発電所。
修理施設。
クルーの食堂。
潜水艦。
地底走行車。
小型潜水艇。
そう考えると、ミステリアスアイランドは「アトラクションがあるエリア」ではなくなります。
ネモ船長という人物が、自分の思想と科学で作り上げた、ひとつの巨大な研究世界になります。
そして、その中心人物は姿を見せません。
でも、見えないからこそ、島のあちこちに彼を探したくなる。
ネモ船長とは、ミステリアスアイランドに姿を見せない天才科学者です。
そして同時に、この島全体を通して存在を感じさせる、東京ディズニーシーでもっとも謎めいた人物のひとりなのだと思います。
次回予告
次回は、少し視点を変えて、メディテレーニアンハーバーの奥にあるレストラン、マゼランズを取り上げたいと思います。
マゼランズは、ネモ船長の研究所そのものではありません。
けれど、大航海時代の海の探険、天文学、そしてS.E.A.の探険家たちの気配を感じられる場所です。
なぜマゼランズは、ただ食事をする場所なのに、あんなにも冒険のロマンを感じるのか。
黄金のドーム。
天球儀。
探険家たちの会話。
航海と星。
そして、東京ディズニーシーに流れる「未知の世界へ向かう精神」。
次回は、**「マゼランズはなぜ大航海時代のロマンを感じるのか。探険家たちが集うレストランとして読む」**をテーマに、レストランに隠れたBGSを読んでいきます。
よければ、次回も読んでください。
