【第002報】「福笑いで描く図面」
「船を造る」というのは、あまり耳馴染みのある話ではない。ただ「ものをつくる」といえば、それは一般的であり分かり易い。故に、「ものづくり」の参考となればと思い、以下に知見を述べていく。
船は運ぶ荷や航路によって「船種」が違う。だがそれは筋が違うので、ここは「造る」に集中する。
船を造る工程は、おおまかにいって「設計」・「建造」・「進水」・「艤装」・「試運転」と続き、その全般に置ける「検査」に合格して、初めて「引き渡し」となる。ただこれも、いわゆる「ものづくり」の過程としては、あらゆるものに共通した工程であり、船の場合は、それが大がかりな点だけ他とは違う。
私が初めて設計したのは、コンテナ船であった。もちろん船の場合は建築と違って、ひとりで設計することはない。設計も「計画・基本・艤装・船殻・配管・電装」など、多岐に渡る。
思い出深いのは「カリブ海向け」のコンテナ船である。契約早々米国は New York から、高名な設計会社の若手技師が造船所に赴任した。さっそく建造仕様書に基づいた「承認図」を出すと、監督室に呼ばれた。そこで監督に言われたのは、「この図面では小さいので書き直せ」だった。
出した図面は Galley(=賄室)配置図。カリブ海向けの船で、Range・Heater・Ovenなど、乗組員三十数名の船だけに、けっこう広い部屋だが、機器が所狭しと並んでいた。それをA3の紙に”1/100”のスケール(2mのTableが図面上20mm)だった。これを監督は「”1/10”で描け」という。つまり2mのTableであれば、図面上で200mm(20cm)となり、A0の紙が必要だった。
私は抵抗したが、監督の言うことは絶対。それに追加で、部屋全体の図面とは別に「各機器の切り絵を用意しろ」と言う。数日後、それを持っていくと大きなテーブルに広げて、要は”福笑い”である。目隠しはしないものの、料理人の動線に従って、最も効果的な機器の配置を探り出したのである。
この経験は、その後長く私のキャリアーを支えてくれた。それは、設計する者は機器の用途を覚え、それを使う人の使い勝手を考え、現場に沿った図面を描かねばならない、ということである。その心構えは、大学で教わった?かも知れないが、現場で見る彼の手法は、まだ20代前半であった私の脳みそを大きく揺らした。以来私は、なにごとも”現場重視”を旨とした。「三つ子の魂、百までも」ではないが、今もあの技師に感謝している。
正にこの様な経験を、次世代の設計者に伝えていきたい。
(了)/文・小林正典
