肘と膝から考える、オープンキネティックチェーンとクローズドキネティックチェーン
久しぶりに、今日は自宅にこもって身体のことについて思っていました。
散歩はまた今度です。
人間の肘関節と膝関節は、どちらも四肢の中央に位置する一関節であり、近位と遠位をつなぐという共通した構造を持っています。しかし、上肢は主としてオープンキネティックチェーン、下肢は主としてクローズドキネティックチェーンとして機能するため、この境界条件の違いが両関節に求められる役割を大きく変えています。
四肢の中央に存在するという構造自体は同じです。しかし、末端が自由に動くのか、それとも環境に固定されるのかという条件が変わるだけで、肘は「環境を操作する関節」、膝は「環境から受ける力を受容・制御する関節」へと役割が分化します。
この違いは筋の発達傾向にも表れています。肘関節では、物を引き寄せたり、自分の手を空間内で自在に操作したりする動作が多いため、肘屈曲筋である上腕二頭筋が日常生活の中で頻繁に使用されます。一方、膝関節では、立位や歩行、階段昇降など体重を支えながら膝折れを防ぐ場面が圧倒的に多く、膝伸展筋である大腿四頭筋が強く要求されます。
一方で、身体づくりの現場では、腕を太く見せるためには上腕二頭筋よりも「上腕三頭筋を重点的に鍛える」ことを美とみる人が多く、重点的に鍛えることが勧められています。上腕三頭筋は上腕の筋量の多くを占めるため、肥大すると腕全体が大きく見えます。この事実は、日常生活では上腕三頭筋が十分に発達するほどの高い負荷を受ける機会が比較的少ないという仮説にもつながります。もちろん、上腕三頭筋は押す動作や身体を支える動作では不可欠ですが、日常生活では上腕二頭筋が担う把持や牽引ほど高頻度には要求されないため、筋肥大という観点では追加のトレーニング効果が現れやすいと考えられます。
つまり、肘は「環境へ力を発揮する(操作・把持・牽引)」ことを主な役割とし、膝は「環境から受けた力を制御する(支持・衝撃吸収・姿勢保持)」ことを主な役割としています。この機能的な違いが、それぞれの筋群に対する活動頻度や負荷のかかり方を変え、長期的には筋の発達傾向にも反映されていると考えられます。
興味深いのは、この役割の違いは二足歩行を獲得してから初めて生じるわけではないという点です。生まれたばかりの乳児は、移動手段として四つ這いの時期を経験します。この段階では上下肢とも床に接していますが、それでも肘と膝の役割は同一ではありません。
四つ這いでは、重い頭部と体幹を支えながら前方へ移動する必要があります。そのため上肢では、肘を伸展位で保持する上腕三頭筋と肩甲帯の筋群が身体を支持する重要な役割を担います。一方、膝は床に接地しているため、立位のように膝関節を介して身体全体を支える必要はなく、体重支持の負担は比較的小さくなります。
つまり、同じ支持動作であっても、上肢は頭部と体幹を支える前方支持装置として働き、下肢は推進や姿勢変換を補助する土台として機能しています。四つ這いの時点ですでに、肘は「前方空間を支え、操作する」という性質を持ち、膝は「身体全体の支持を制御する」という、後の二足歩行へとつながる役割を準備していると考えることができます。
このように考えると、
同じ四肢の中央に位置するという構造でも、境界条件が変われば要求される機能が変わる。そして、その機能への要求頻度が長期的には筋発達や形態にも反映される。
という原理は、成人の運動だけでなく、人間の発達過程にも一貫して見られる生体の基本原理である可能性があります。
肘も膝も、中間の一関節という構造は同じです。
しかし、環境との関係が変わるだけで役割は大きく変化します。生物は構造そのものを変えているのではなく、置かれた境界条件に対して最適な機能を獲得し、その機能が長い時間をかけて筋や骨格の発達にも反映されていきます。この視点で身体を見直すと、「筋肉があるから動く」という見方ではなく、「求められる役割が筋肉を育てる」という逆向きの理解ができます。つまり、
構造が機能を決めるのではない。境界条件が機能を決め、その機能が構造を育てるのではないだろうか。
という仮説をもっとも分かりやすく教えてくれる一対の関節なのだと思えます。
このことから、関節の形だけを見るのではなく「どのような境界条件の中で働いているか」を見ることが、理学療法における評価として必要な視点なのかもしれません。
このような視点に関しては、発達学と運動学での内容なので、当然共有されている内容ですが、「解釈」によって意味が異なってきます。
「構造が機能を決めるのではない。境界条件が機能を決め、その機能が構造を育てるのではないだろうか」
というのは私の「解釈」であり、共有されている事項ではないと思います。同じように感じている人もいますが、これが一般的ではない、ということになります。
