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《短編小説》夜空に舞う花火



――ドンッ。
夜空を震わせる音に、胸が一瞬だけ跳ねた。
頭上に広がる大輪の光は、あっという間に散り、闇に溶けていく。
花火を見上げるたび、私は「過去」と向き合わされる。
隣にいるはずだった人を思い出すからだ。
「ほら、見て。きれいだろ?」
あの声はもう戻らない。
けれど、消えたわけじゃない。
花火の光が、私の心の奥に焼きつけている。
――忘れたくても、忘れられない夏がある。

川沿いの堤防は、浴衣姿の人であふれていた。
屋台の焼きそばの匂い、子どもたちの笑い声、遠くで響く太鼓。
そのざわめきの中、私はひとり立ち尽くす。

周りは楽しそうに笑っているのに、私の耳には花火の音だけが響いていた。
花火を見るとき、隣にいた彼の横顔を、どうしても思い出してしまう。

――二年前の夏。
同じ場所で、彼と並んで座っていた。
屋台で買ったかき氷を二人で食べ、寒いだろと彼が自分の浴衣の袖を私にかけてくれた。
「来年も見ような」
その言葉を信じて疑わなかった。

けれど「来年」は来なかった。
突然の事故で、彼は帰らぬ人となった。

夜空を染める大輪の光が、涙でにじむ。
人混みのざわめきに紛れて、嗚咽がこぼれた。

そのときだった。
耳元で――
「……ほら、きれいだろ?」
幻聴のように、彼の声が確かに響いた。

はっとして振り向く。
当然そこに彼はいない。
けれど、不思議なことに涙は止まっていた。

花火の光が、まるで彼の残した言葉の続きを空に描いているようだった。
――「忘れるなよ。俺はここにいる」

私は空を見上げて、小さく笑った。
「うん……来年も、見ようね」



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