空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑬
第十三章
“空席の記憶”
白い“手”の腕が、
空から落ちていた。
神をも喰らう存在。
世界の外側。
その一部が。
今。
黒い霧を撒き散らしながら、
地上へ墜ちていく。
──ズゥゥゥゥン……
落下した瞬間、
山脈が消えた。
爆発じゃない。
衝撃でもない。
“存在そのもの”が、
世界から抜け落ちる。
地図が変わる。
空間が歪む。
戦場全体が、
悲鳴を上げていた。
兵士達は、
ただ呆然としている。
理解できない。
いや。
理解したくない。
神代災害。
断罪の聖女。
天門。
そんなものを遥かに超えた、
“何か”がここにいる。
そして。
その中心にいるのは。
奴隷だった少年。
レイン。
彼は、
エルシアの背中を見ていた。
黒髪。
漆黒のドレス。
終焉鎌ネメシス。
その姿は、
あまりにも綺麗だった。
なのに。
酷く壊れそうだった。
まるで。
ずっと孤独の中で戦ってきた人間みたいに。
その時。
白い“手”が、
初めて“声”を発した。
──ゴォォォォォ……
違う。
音じゃない。
脳へ直接流れ込む、
異質な波。
聞いた瞬間。
何人もの兵士が、
泡を吹いて倒れた。
精神が壊れている。
ルミアが耳を塞びながら叫ぶ。
「聞いちゃダメ!!」
「意味を理解したら終わる!!」
だが。
レインだけは聞こえていた。
いや。
“理解できてしまった”。
《裏切り者》
瞬間。
エルシアの肩が、
僅かに揺れる。
レインは見逃さなかった。
白い“手”は続ける。
《終焉を拒絶した者》
《死を閉じ込めた罪人》
空気が変わる。
フェルグラードの顔から笑みが消える。
ゼルヴァが舌打ちした。
「……チッ」
ルミアは青ざめている。
レインだけが、
状況を理解できていなかった。
「……どういう意味だ」
エルシアは答えない。
ただ。
ネメシスを握る手に、
少しだけ力が入る。
その時だった。
レインの脳へ、
再び激痛が走る。
──ズキィィィッ!!
視界が割れる。
世界が崩れる。
そして。
見えた。
……黒い空。
燃える世界。
崩壊した文明。
その中央。
無数の玉座。
空席だらけの王座群。
その最奥。
巨大な“黒き王座”。
そこに座る、
一人の男。
顔は見えない。
だが。
その瞳だけが見えた。
紫。
深淵みたいな紫。
男は、
静かにエルシアを見ていた。
そして。
微笑む。
《お前だけは》
《最後まで残ったな》
エルシアが、
その場に膝をついていた。
血まみれで。
泣きながら。
ネメシスを抱えて。
そして。
叫んでいた。
「もう……やめて……!!」
レインの意識が戻る。
──ハッ!!
息が荒い。
心臓が壊れそうだった。
今のは何だ。
記憶?
夢?
違う。
“王座の過去”。
レインはエルシアを見る。
彼女は静かだった。
何も言わない。
でも。
その横顔が、
どこか苦しそうだった。
白い“手”が笑う。
無数の目が、
一斉に歪む。
《王座は滅びた》
《なのに何故》
《まだ抗う》
エルシアが、
ゆっくり顔を上げた。
蒼い瞳。
そこにあったのは。
静かな怒り。
そして。
消えない悲しみ。
彼女はネメシスを構える。
その瞬間。
鎌の奥で、
無数の亡者達が絶叫した。
空間が裂ける。
夜が歪む。
エルシアは、
静かに言う。
「……黙れ」
空気が凍る。
死が深くなる。
そして。
彼女は、
初めて感情を露わにした。
「お前達が」
“全部壊したんでしょうが”ッ!!!!」
──ドゴォォォォォン!!!!
紫黒の死が、
世界を裂いた。

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