傀儡の人形は何想ふ【特別読み切り版】
冷たかった。
雨も。
風も。
人の言葉も。
全部。
少女は泥だらけの道を歩いていた。
靴底は擦り切れ。
服は破れ。
髪は雨で張り付いている。
それでも足を止めなかった。
止まれば終わるから。
また見つかる。
また追われる。
また石を投げられる。
また言われる。
気持ち悪い、と。
少女は唇を噛んだ。
もう聞き飽きた言葉だった。
けれど。
慣れることはなかった。
どれだけ時間が経っても。
どれだけ傷付いても。
心だけは慣れてくれなかった。
───三年前。
少女は異世界へ召喚された。
眩しい光。
王城。
歓声。
希望。
期待。
人生が変わる。
そう思った。
だが。
与えられたギフトを見た瞬間。
周囲の目は変わった。
《傀儡》
人形を操る力。
たったそれだけ。
剣を振れない。
魔法も使えない。
回復もできない。
人形を動かせるだけ。
周囲は失望した。
やがて嫌悪した。
そして恐れた。
「人形使い」
「不気味な女」
「呪われたギフト」
いつしか少女自身も傀儡を嫌うようになった。
だって。
傀儡が現れるたび。
人は離れていくから。
傀儡を見るたび。
自分の価値のなさを思い出すから。
だから少女はギフトを使わなくなった。
それでも。
嫌われることは終わらなかった。
その日も追われていた。
理由は知らない。
いつもそうだった。
理由なんてない。
嫌われる理由が。
嫌う側には必要ないから。
森の中を駆ける。
枝が肌を切る。
足がもつれる。
息が苦しい。
それでも走る。
走る。
走る。
そして。
気付けば。
見知らぬ遺跡の前に立っていた。
巨大な石造りの建造物。
崩れた塔。
絡みつく蔦。
誰も近寄らない場所。
不思議なことに。
追手の気配が消えていた。
まるで。
遺跡そのものが外界を拒絶しているかのように。
中は静かだった。
あまりにも。
静かだった。
自分の呼吸音だけが響く。
奥へ進む。
暗闇の先。
広間へ出た。
そして。
少女は足を止める。
そこに。
一体の人形がいた。
銀色の髪。
透き通るような肌。
閉じた瞳。
まるで眠る少年。
いや。
生きている人間にしか見えなかった。
少女はゆっくり近付く。
不思議だった。
怖くない。
傀儡なのに。
大嫌いなはずなのに。
なぜか。
この人形だけは違った。
ずっと前から知っていたような。
そんな感覚。
少女は人形の前に座り込んだ。
何となく。
話しかけたくなった。
「ねぇ」
返事はない。
当然だ。
人形なのだから。
「私ね」
声が震える。
「疲れちゃった」
ぽたり。
涙が落ちる。
「頑張ったんだけどな」
ぽたり。
また落ちる。
「認めてもらいたかっただけなんだけどな」
止まらない。
気付けば。
何年も飲み込んできた言葉が溢れていた。
「友達が欲しかった」
「笑いたかった」
「誰かに必要って言ってほしかった」
少女は人形へしがみつく。
涙で濡らしながら。
声を殺して泣いた。
誰にも見せられなかった泣き顔を。
初めて見せた。
相手は人形だったけれど。
その夜。
少女は泣き疲れて眠った。
人形に寄り添うように。
夢を見た。
白い世界。
果てのない光。
その中心に誰かが立っていた。
顔は見えない。
男か女かも分からない。
ただ。
声だけが響く。
『お前は何故、傀儡を嫌う』
少女は答える。
「嫌われるから」
『ならば問おう』
声が近付く。
『本当に嫌われているのは傀儡か』
少女は言葉を失う。
『お前はまだ何も知らない』
『傀儡とは何か』
『人とは何か』
『心とは何か』
『彼と共に歩め』
『答えはその先にある』
光が溢れた。
世界が消える。
最後に聞こえた言葉。
それだけが妙に耳に残った。
『彼は長い間、お前を待っていた』
目を覚ます。
朝日。
遺跡。
静寂。
夢だったのだろうか。
そう思った時。
少女は凍り付いた。
目の前の人形が。
こちらを見ていた。
蒼い瞳。
優しい瞳。
人形はゆっくり立ち上がる。
少女の心臓が激しく鳴る。
恐怖ではない。
何か別の感情だった。
少女は震える手を伸ばす。
三年間。
一度も使わなかったギフト。
「《傀儡》」
光が溢れた。
人形が輝く。
そして。
次の瞬間。
人形は少女を抱き締めた。
言葉はない。
何も言わない。
ただ。
優しく。
優しく。
抱き締める。
少女の瞳から涙が溢れる。
不思議だった。
初めてだった。
この世界へ来て。
誰かに必要とされた気がした。
その時だった。
人形の手に握られた一冊の本。
古びた表紙。
そこにはこう記されていた。
【最後の傀儡師冒険譚】
少女はページをめくる。
そこに記されていたのは。
世界から消えた歴史。
傀儡の成長。
進化。
意思。
感情。
人格。
そして。
伝説の傀儡師だけが到達したという最終地点。
《人と変わらぬ存在》
少女は息を呑む。
そんなこと。
誰も教えてくれなかった。
本はそこで終わらない。
最後のページ。
そこには誰かの手で書き加えられた文章があった。
少女は読み進める。
そして。
全身が震えた。
⸻
もしも。
これを読んでいる者がいるなら。
私は既にいないだろう。
私は傀儡師として最果てへ辿り着いた。
傀儡は人と変わらぬ存在となった。
だが。
それは終着点ではなかった。
私は知ってしまった。
傀儡には。
さらに先があることを。
私は辿り着けなかった。
だから託す。
もしも。
あなたが私を超えられるなら。
第七段階を見つけてほしい。
そして。
その答えを教えてくれ。
傀儡たちは。
最後に何を想うのか。
⸻
少女は本から顔を上げた。
隣に立つ銀髪の人形を見る。
すると。
人形もまた。
静かにこちらを見ていた。
その瞳には。
一瞬だけ。
言葉にできないほど深い感情が宿っていた。
まるで。
その答えを知っているような。
あるいは。
忘れてしまったような。
そして。
本の裏表紙に気付く。
今まで見えていなかった文字。
そこにはこう書かれていた。
⸻
続きは。
最初の傀儡へ。
⸻
少女の背筋を冷たいものが走った。
最初の傀儡?
伝説の傀儡師ですら到達できなかった答え。
そして。
目の前の銀髪の人形。
その時。
人形が初めて口を開いた。
かすれた声で。
消えそうなほど小さな声で。
たった一言。
「……やっと」
少女は目を見開く。
だが。
人形はそれ以上何も言わなかった。
ただ。
どこか懐かしそうに。
悲しそうに。
微笑んでいた。
その笑顔の意味を。
少女はまだ知らない。
これが。
世界から忘れられた傀儡の真実へ続く。
長い長い冒険の始まりだった。
【特別読み切り版・完】
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます✨
今回は新作ファンタジー小説
『傀儡の人形は何想ふ』
の特別読み切り版にしてみました📖
少女と人形の出会い。
そして最後に残された謎。
皆さまはどう感じましたか?
🔹「面白かった!」
🔹「続きが読みたい!」
🔹「人形の正体が気になる!」
🔹「最初の傀儡って何だろう?」
🔹「最後の“やっと”に鳥肌が立った!」
などなど、
ぜひコメントで感想を聞かせてください😊
作者は皆さまのコメントを読むのが大好きです✨
また、
❤️スキ
📝コメント
🔄シェア
も作品制作の大きな励みになります🍀
そして何より気になるのは……
この物語の続きを読みたいと思いましたか?
もし連載化するとしたら、
少女と人形の冒険をどこまで追いかけてみたいですか?
ぜひ率直なご意見をコメントで教えてください✨
あなたの一言が、
この物語の続きを生み出す力になるかもしれません。
それではまた次の物語で📖✨
ひら🎈より🌸
※現在連載中のこちらもよろしくお願いします。
いいなと思ったら応援しよう!
🌟ぜひ応援お願いします🌟
もっとがんばります(ง •̀_•́)ง