Re第3夜「深夜2時、あの扉の奥にいたもの──夏の病棟より」
🔹はじめに
……この話はねぇ、以前に一度、書いたことがあるんですよ。
でもね……どうしても“あの感覚”が、頭から離れなかったんです。
夜中の病院。
エレベーターの前で感じた、説明のつかない寒気と“見えない何か”。
あのとき感じた恐怖……
もっと深く……もっと真に迫って、描いておかなきゃいけない気がしてねぇ。
だから今回──
あらためて、“あの夜”を、徹底的に思い出してみたんです。
当時の息づかい、空気の湿り気、ペットボトルが転がる音の一つひとつまで……
そうしたらね……見えてきたんですよ。
“あの扉の奥”に、確かに“何か”がいたってことが──
……あなたは、
深夜のエレベーターの扉が、誰も押してないのに開きはじめたら……
その中を、覗きますか?
それでは……
どうぞ、“視えてしまった”世界へ……お入りください──

……あれはねぇ……
今でも夢だったんじゃないかって、自分に言い聞かせてるんですけどね……
夏の夜……
癌の手術を控えて、病院に入院していた時のことなんですよ……
いやぁ……暑いんですよ、夜なのに……
クーラーは効いてるはずなのにね、なんかこう……まとわりつくような、湿った空気で……眠れない。
時間は……午前2時すぎ。
消灯もとっくに終わって……病棟全体がシーンと静まり返ってる。
……でもねぇ、眠れなかったんですよ。
手術のこと、これからのこと……考えると、どうしても……眠れなかった。
それでね……
本当はいけないんですけど、我慢できなくてね……
病室をそっと抜け出して、タバコを吸いに行ったんです……
──1階の喫煙スペース。
昔ながらの病院でね……
今どきじゃ考えられないけど、ちょっと奥まった場所にまだ喫煙できる裏スペースがあって……
自販機で缶コーヒーを買ってね、
警備室の前を静かに通って……人の気配もまるでない、あの無機質な夜の廊下を歩いて……
ふぅ……っと、一服。
夜風は……ぬるいのに、どこか肌寒くてねぇ……
煙を吐きながら……ぽつんと自分ひとり。
「なんで、こんなことに……」って。
情けなくて……悔しくて……怖くてね。
だけど、煙草の火が少しだけ心を落ち着けてくれて……
ようやく気持ちが静まってきた頃……病室に戻ろうと思って……
また警備室の前を通って、今度はペットボトルのお茶を1本買って……
何気なく、いつものようにロビーを抜けたんです。
そのとき、ふと思ったんです……
──“あのおじいさん、今日はいないんだな……”
ロビーの隅にある、ちょっと古びたソファ。
あそこにねぇ……毎晩、座ってる“人”がいるんですけどね。
看護婦さんも何人か見ていて「あの人、もう亡くなってる方ですよ」って……そういう噂が、あるんですよ。
でも、その夜は……いなかった。
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