見出し画像

『殴り殴られボクシング酒場』ep.25「狂喜乱舞ぶんぶく茶釜」


よもぎさんに捧ぐ


朝だモーモーモーニングだった。

朝陽を背負った大ちゃんが、舟を漕いでいる。

首が左右にカックン、カックンカックラキン大放送!!。

俺はソロリ大竹しのぶ足で近づき、膝のあたりから低音で囁いた。

「オッハー……」

次の瞬間、俺は部屋の端まで吹き飛んでいた。

「いってええええ!」 「ごめんな朔ちゃんちゃん! だども柄にもなく忍者みてえなことすんでねえ!」

右目を押さえながら転がる俺。

土下座しながら謝る大ちゃん。

静寂ゼロ。

だがその刹那、俺は見た。

大ちゃんの目の下に残る夜の色。

——いや、逆光だ。たぶん。

そんなことより。

ぐううううう。

大ちゃんの腹が鳴るうぅぅ。

ぐううううう(まるでうるさいサイレンだ)。

俺の腹も応戦する(今日の身体はやけに正直だ)。

「輪唱だべ!?」 「いや斉唱ユニゾンだ!」

パンッ!と手を打ち鳴らしパンッパンパパパンパンシロンと続ける、

俺たちは…腹を抱えて笑う。わらわらわらは大わらわ。

腹が鳴るたび、腹筋が壊れる。

笑いすぎて肋骨がバラバラになりそうだ。

「そうだ腹減った!」 「それな! 俺も減っただ、ダイバダッタ」

腹が鳴る。

声が重なる。

笑いももちろん重なる。

なるなるナニヌネノ。鳴る鳴るナリルレロ。

——これだ。これがリズムだ。リズムダンスだ。

俺たちは〜階段を〜駆け下りるんるん。

大ちゃんに衣紋を掴まれ、尻を打つ。

「おめえ俺を殺す気か!」 「逆だ逆!」

逆らいながらも、腹は正直だ。

台所ではイヨさんがイヨイヨ味噌汁をよそっている。

「朝から何やってんのさ、あんたら!」

豆腐の味噌汁。

茄子の糠漬け。

人参の山。

大ちゃんは人参を俺の皿に滑り込ませる。

「食え。」 「やだ。」 「食え。」 「やだ。」

イヨさんが爆笑する。

「よし! 朝の腹鳴らしラップ合戦だ!」

突然イヨさんが手拭いを振り回す。

ビート開始。

ぐう!

ぐう!

ぐう!

「腹が鳴るのは生きてる証拠!」 「空腹こそが命の合図!」 「味噌汁すするぜ高速移動!」 「人参拒否する朔の衝動!」

イヨさんが合いの手。

「Yo! 味噌が染みるぜ前頭葉!」 「Yo! 鳴らせ腹太鼓全員集合!」

腹が鳴るたび拍手喝采。

黒い学生服の連中が台所の入り口に群がる。

「なにあれ……」 「楽しそう……」

憧れの視線。

よし。

次だ。

「福笑い対決だ!」

目隠しをして、大ちゃんの顔に目と鼻を貼る。

完成。

鼻が額、目が顎。

「新種の生き物だべ!?」 「進化したな!」

イヨさんも参戦。

完成。

口が後頭部。

「後ろで笑ってんじゃねえか!」

転げる。

本当に転げる。

腹が鳴る。

笑いが鳴る。鳴る鳴るのナリルレロ。

「よし、漫才対決!」

大ちゃんがツッコミ役。

「おめえ朝からズケズケとスケコマシ言い過ぎだべ!」 「俺は天下のスケコマシ!」 「天下取ってねえだろ!単位も取れてねえし、笑いだって全然取れてねえ」

イヨさんが観客役で笑い転げる。

黒い学生服どもは完全に観客だ。

「ぜんざい行くべ!」

三人揃って暖簾をくぐる。

「栗入ってっか?」「姉ちゃんとお風呂入ってっか?」 「え、ええ……!?」

娘さんが戸惑う。

「よし、行け、ぜんざい早食い競争だっちゃ!」

「待て! 熱い!」 「熱さも人生!よよいのよい」 「理屈こねんな!」

スプーンが鳴る。すっぷ〜んと臭う。

息が荒れる。

湯気がすくっと立つ。

「勝者は(やっばり)、イヨイヨイイヨイヨさん!」 「あんたらにはまだまだ負ける気がしないよ!」

栗を大ちゃんの腕に全部滑り込ませる。

「それ栗ぜんざいじゃねえじゃん!」 「実は栗食べられないんだよ!!」

屁理屈もリズムの一部。

丸窓の外、黒い学生服どもが見ている。

忙しそうな顔。

俺は匙を傾ける。

「食うか?」

三人は顔を見合わせる(そんなに見つめたら照れるじゃねえか)。

爆笑。

腹が鳴る(ぐう〜ぅウ)。

声が重なる(カッガッカッ)。

笑いが重なる(グヘヘエエぇ)。

未来?

成功?

そんなもんはぜんざいの底に沈めとけ。

今ここで(今でしょ)、

腹が鳴る鳴る法隆寺、

誰かが笑って泣きながら、

甘いものをすするうぅぅう。

それで十分だ(それ以外に何がいるっテンダネス)。

生は理屈じゃないって。

ラリルレレロレロ、レロリズムだ。

三人で肩を並べ、

湯気の向こうで笑い転げる。

黒い学生服どもがついに言った。

「俺たちも……やるかやれるか、やられるか?」

「やれやれ! まずは腹鳴らせ!」

町に腹の音がこだまする。

ぐうううううぅぅぅ〜。

それが合図だっぺ。

狂喜からの〜

斉唱ううぅぅぅ。

朝はまだまだ終われない。

俺たちは〜、

ただひたすらに〜、

笑い転げているだけだ。


いいなと思ったら応援しよう!