✴️第三章|夜の図書館──パンパイアの記憶

その夜ふたりは、ただ静かに座っていた。
語られたのは、奪った“命”の記憶。
赦しではなく、響きとして——
沈黙のなかで交わされた“再起動”の約束。
その夜、ふたりは言葉を交わすでもなく、
ただ同じ星空の下に座っていた。
レイラのすぐ隣には、
長い年月を夜だけで過ごしてきたパンパイア。
「お前に……言わなくちゃならないことがあるんだ」
彼はぽつりと呟いた。
「わたしが“最初に奪った命”のことだ」
レイラはそっと頷いた。
それが彼の心に、何百年も突き刺さっていたことを知っていたから。
「その人はね」
パンパイアは目を閉じたまま語りはじめた。
「逃げなかった。
逃げようとせず、ただ、
わたしを見つめた。
『あなたはわたしを殺すつもりじゃない』って……
そう言ったんだ」
その声に震えがにじむ。
感情の波が、声を通してレイラの胸に届く。
「わたしは、ただ生きたかった。
ただ、生きるために……」
レイラは、そっと彼の手を取った。
「それでも、あなたは、その夜以降、
誰かを守るようになった」
「……あぁ、そうだ。
なぜか、もう“奪う”ことができなくなった。
代わりに、夜を彷徨う者たちに
“ここへおいで”と手を差し伸べていた。
わたしは……そうせずにはいられなかった」
彼の目が静かに潤んでいた。
それは、赦されていないと思い込んできた者の涙。
レイラは、肩を寄せた。
「ねぇ、あなたはずっと“赦し”を待っていたの?」
パンパイアは答えない。
ただ、少しだけ、頷いた。
「でもね、わたしは──」
レイラの声は、静かに夜に溶けていった。
「最初から赦していたの。
それどころか、
あなたを……
また会えるように、呼んでいたの」
パンパイアの唇が震えた。
言葉が、出てこない。
何百年という沈黙が、いまようやくほどけた瞬間だった。
「ありがとう」
その言葉は、風よりも静かだった。
「わたしは、ずっと、
誰かにそう言ってもらえる日を夢に見ていた」
その夜、夜の図書館では、
記憶が本棚から一冊ずつ取り出されるように
ふたりの間に並んでいった。
それは、
過去を裁くためではなく、
抱きしめるための記憶。
そして、パンパイアは笑った。
はじめて見せるような微笑みだった。
「……まさか、この夜が来るとはな」
第四章では──
パンパイアがなぜ“夜”を選んだのか、
なぜ“孤独”を選んだのか。
夜と孤独の正体を、ふたりで紐解いていきます──。
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