掌編小説⚫︎自動化の行方 #風まかせ文芸部
i様の下記記事に挑戦させていただきました。
「おはよう、今日もよく眠れた!」
静かに佇む僕をちらりと見て、沙織は勢いよくベッドから跳ね起き、慌ただしく朝の支度を始めた。
「しまった!ブラウス洗濯するの忘れてたー!
……しょうがない今日はカットソーにするかぁ。これ新しく買ったばかりだけどなー。
あっ、ストッキング、破けてる……」
相も変わらずおっちょこちょいな彼女を見ていると、すこしだけ僕の口角が持ち上がる。
ある程度落ち着いた沙織は、いつものように僕の前にすわった。
「ありがとう!じゃ、いただきまーす」
沙織はスープしか飲まない。
皿の表面を覗き込み、その温もりを確かめるような仕草を見せてから、顔を上げ僕に微笑んだ。
それからスプーンを手に取り、ひと口ひと口、丁寧に、同じ速度で口元へと運ぶ。
白く透き通るような喉を、僕は微動だにせず見つめている。その喉を流れるスープの温かさを、その感覚を知りたいと思いながら。
「ごちそーさま!やばっ、もうこんな時間!?
今日は17時には帰るから、よろしくね!
じゃ、いってきまーす!」
椅子から立ち上がり、扉の近くに掛かっているコートを羽織ると、勢いそのままに玄関のドアを開き、そして沙織は静止した。不自然なほど突然に。
先ほどまでの時間が嘘のように静まり返る部屋。まだ少し、彼女の香りだけは漂っている、気がする。
「……うん。少し修正の余地があるけど大体完成かな」
僕はスッと立ち上がり、沙織の側に行った。
「そうだ、スープをこぼして僕に謝るプログラムも組み込んでみよう。
帰宅後の自動化プログラムはそのあとだな」
動かなくなった沙織を抱き抱え、優しくベッドに寝かせたあと、温もりのないはずの唇にキスをした。
「もうすぐ、君に『いのち』を与えられそうだよ」
そう告げながら、ふいに思う。
この台詞、僕はどこかで聞いた気がする。
終
お読みいただきありがとうございます!
#風まかせ文芸部
