良い理学療法士ほど「何もしない勇気」を持っている。
理学療法士というと、「運動をする人」というイメージを持たれることが多い。
歩行練習をして、筋力トレーニングをして、ストレッチをして…。
もちろん、それらは理学療法士として大切な仕事だ。
でも、訪問リハビリを始めてから気づいたことがある。
良い理学療法士ほど、「何もしない勇気」を持っている。
新人の頃の私は、「何かしなければいけない」と思っていた。
今日は何種類の運動をしよう。
歩行距離をどれだけ伸ばそう。
ROMを少しでも改善しよう。
時間いっぱい身体を動かしてこそ、良いリハビリだと思っていた。
しかし、在宅には教科書通りにはいかない現実がある。
終末期で強い痛みを抱えている方。
化学療法や放射線治療で疲労が強い方。
夜も眠れず、今日は座っているだけでも精一杯な方。
そんな日に「頑張って運動しましょう」と言うことが、本当にその人のためなのだろうか。
私はそうではないと思っている。
「今日は休みましょう。」
「無理しなくて大丈夫ですよ。」
その一言が、最善のリハビリになる日がある。
そして、もう一つ大切にしている時間がある。
私は勝手に**『おしゃべりテーション』**と呼んでいる。
ただ世間話をしているように見えるかもしれない。
昔の仕事の話。
家族の話。
若い頃の思い出。
好きな食べ物。
犬や猫の話。
笑って、冗談を言って、時には愚痴を聞く。
身体はほとんど動かしていなくても、表情が明るくなり、「今日は楽しかった」と言ってくださることがある。
孤独を感じていた方が笑顔になる。
家族が少し肩の力を抜ける。
その時間にも、私は十分価値があると思っている。
もちろん、運動療法を否定したいわけではない。
歩行練習も筋力強化も、理学療法士として欠かせない技術だ。
でも、その技術を**「いつ行うか」「今日は行わないという選択をするか」**を判断することも、同じくらい重要な専門性ではないだろうか。
リハビリとは、身体を動かすことだけではない。
その人が「今日は少し元気になれた」と感じられる時間をつくること。
その積み重ねも、立派なリハビリだと私は思う。
だから今日も私は、ときどき胸を張ってこう言う。
「今日は、おしゃべりテーションをしてきました。」
