「入りやすい」は本当?海外医学部進学を選択する前に知っておくべきこと
医学部予備校レユシール代表の片山湧斗です。
近年、保護者の方からこのようなご相談をいただく機会が増えています。
「東欧やイタリアの医学部なら、学費も安くて入りやすいと聞いたのですが、どう思いますか?」
インターネットやSNSの普及により、海外医学部の情報が以前より格段に手に入りやすくなりました。ハンガリー・チェコ・イタリアなど、日本人が進学できる選択肢も広がっています。
しかし私は、レユシールで多くの医学部受験生・保護者の方と関わってきた経験から、はっきり申し上げたいことがあります。
「国内の医学部が難しそうだから海外へ」という動機で海外医学部を選ぶことは、絶対にお勧めできません。
受験がうまくいかないとき、「海外という選択肢もある」と思うと、気持ちが楽になるかもしれません。しかし、その「楽さ」は錯覚です。現実には、海外医学部はより多くのリスクと困難を抱えた道です。消極的な理由で選んだ場合、その後の6年間を乗り越えることはさらに難しくなります。
私がレユシールで指導してきた経験から断言できることがあります。日本の医学部受験は、きちんと正しい方法で勉強すれば、必ず合格できます。 「自分には無理だ」と感じているお子さんの多くは、勉強量が足りないのではなく、勉強の方法が間違っているだけです。正しい戦略と指導のもとで取り組めば、国内の医学部合格は決して不可能ではありません。
海外医学部は、その可能性を諦めた人が選ぶ道ではなく、明確な目的を持った人が選ぶ道であるべきです。
本当に考えるべきは、「卒業後にどうなるのか」——つまり「出口」です。
医学部の「入口」ではなく「出口」から考える
海外医学部を選ぶ際、多くのご家庭が「入りやすいかどうか」を基準にしています。しかし本当に考えるべきは、「卒業後はどうなるのか」です。日本の医学部以上に色々と制限がでてくる海外の医学部への進学は慎重に考えるべきです。
今回は、出口設計の観点から、海外の医学部を検討している受験生の方、保護者の方にぜひ知っておいていただきたい現実をお伝えします。
論点① 日本で医師になれるのか?
海外医学部を卒業した場合、日本で医師になるまでの道のりは、国内の医学部卒業者とは大きく異なります。
日本の医学部を卒業した場合、卒業さえすれば自動的に医師国家試験の受験資格が得られます。しかし海外医学部を卒業した場合は、まず厚生労働省による個別審査を別途受けなければなりません。
ここで重要なのは、厚生労働省は海外の医学校に対して「この大学の卒業生には受験資格を一律に認定する」という約束を一切していない点です。留学エージェントが「日本の国家試験が受けられる」と宣伝していても、それは厚生労働省が保証したものではありません。
審査の結果、基準を満たしていないと判断された場合は、さらに「予備試験」への合格と1年以上の実地修練が必要になります。6年間学んで卒業しても、すんなり国家試験に進めないケースが実際に存在します。
また、卒業のタイミングも重要です。ハンガリーの場合、5月の卒業試験に合格しなければその年の日本の国試に間に合いません。8月・11月の卒業となると、日本の国試を受けられるのは翌々年になります。
論点② 実際に卒業・合格できる割合は?
「入りやすい」のは事実です。しかし、入学してから卒業・国試合格まで到達できる割合は、多くの保護者の方が想像しているより、はるかに低いのが現実です。
ハンガリーの医学部について、日本人学生の実態をみると、入学した学生のうち卒業までストレートで到達できるのは入学者の3分の1にも満たないとさいわれています。さらに日本に帰って働く場合、日本の医師国家試験の勉強を一から勉強し直す必要があります。海外大出身者の日本の医師国家試験の合格率は約60〜65%です。日本の医学部新卒の合格率が95%であることと比べると、大きな差があります。
つまり、入学した10人のうち、卒業して日本の国試にも合格できるのは2人程度という計算になります。
論点③ EUで働くという選択肢は現実的か?
「EU医師免許が取れるから選択肢が広がる」と宣伝されることがあります。制度上はたしかに、ハンガリーやチェコの医学部を卒業してEUの医師免許を得れば、EU加盟国全域で医師として働くことができます。
しかし現実はどうでしょうか。
ハンガリー医学部の卒業生の8〜9割は、卒業後に日本に帰国して国試を受けています。EU就労を選ぶ学生は少数です。
その理由は明確です。EUで医師として働くには、医師免許だけでなく、就労ビザの取得と現地語での高度な語学力が必要だからです。授業は英語で受けられても、実際にドイツやフランスで医師として働くにはドイツ語・フランス語が高いレベルで要求されます。6年間英語で医学を学んだだけでは、その壁を越えることは非常に困難です。
また、EU市民ではない日本人は、EU圏内の「自由移動」の恩恵を受けられません。医師過剰の国ではビザが下りないこともあります。
「EU医師免許が取れる」というメリットは、実態としてはほとんどの日本人学生にとって機能しておらず、結局は「日本に帰国して国試を受ける」という一本道しか残されていないのです。
EUで医師として本当に働きたいという強い意志と、現地語習得への覚悟がある学生であれば話は別ですが、しかし「なんとなく海外の生活に憧れる」「英語が話せるようになりたい」というレベルの動機であれば、海外医学部はまったくお勧めできません。
海外に出る選択肢は他にもある
海外への興味や憧れは、国内の医学部に入ってからでも十分に叶えられます。実際、日本の医大生は長期休暇を利用して積極的に海外へ出ています。医学部の夏休みや春休みを活用して世界中を旅し、視野を広げている学生は少なくありません。
さらに見落とされがちな事実として、日本の医学部には海外の大学病院で実習できるプログラムが数多く用意されています。東京大学では、学年の3分の1もの学生が海外で実習を経験しています。行き先もアメリカ・フランス・アジアなど多岐にわたり、世界中の医療現場を肌で感じる機会が整っています。
つまり、国内の医学部に進学したとしても、本気で海外を目指せば、医大生や医師として海外経験をしっかりと積む機会があるのです

ここでぜひ考えていただきたいことがあります。お子さんが「海外に行きたい」と言うとき、その動機はどちらでしょうか。
「海外で一生、医師として働き続けたい」のか。それとも「海外の生活や文化を経験してみたい」という憧れなのか。
この2つは、まったく別の話です。
前者であれば、先に述べた「強い意志と帰国子女レベルの英語力」を持った上で、海外医学部という選択肢を検討する価値があります。
後者であれば、答えは明確です。国内の医学部に進学し、海外実習プログラムを活用してください。アメリカの名門病院で実習し、フランスやアジアの医療現場を経験し、長期休暇には世界中を旅することができます。海外への憧れを叶えるためだけに、6年間・多額の費用・キャリアリスクを背負う必要はまったくありません。
論点④ 卒業できなかったとき、何が残るのか
これが最も深刻な問題です。
海外医学部に進学して、もし卒業できずに日本へ帰国した場合、どうなるでしょうか。
また1から、医学部受験をやり直すことになります。
国内の医学部受験は、年齢に対してシビアな側面があります。20代後半での再受験は、現役・浪人生との競争に加え、面接での不利も生じやすくなります。
さらに深刻なのは、医学部以外の進路も事実上、断たれてしまうことです。海外で数年を費やした後に就職市場に戻ることは容易ではありません。医師にもなれず、他のキャリアにも進みにくい——そういった状況に追い込まれた若者を、私はこれまで複数見てきました。
これは絵空事ではありません。私が実際に関わった生徒の話をします。
その方は国内の医学部受験を4浪しましたが合格できず、海外医学部に進学しました。しかし3年で退学を余儀なくされ、日本に帰国。その後、また医学部受験の浪人生活を始めました。
4浪+海外3年。合計7年以上を費やして、振り出しに戻ったのです。
この現実を前にして、「消極的な理由で海外医学部を選ぶことの危うさ」を、改めて感じていただけるのではないでしょうか。国内での受験がうまくいかなかった方が、より困難な環境で6年間を乗り越えることがいかに険しい道であるか——数字ではなく、生身の人間の話として受け止めていただければと思います。
「入口」だけで選ぶことの危うさ
ここまで読んでいただいた方には、お伝えしたいことが伝わったかと思います。
海外医学部を選ぶ際に「入りやすい」という理由だけで飛び込むことは、非常にリスクの高い判断です。
卒業できるのは入学者の4分の1以下
卒業しても日本の国試に合格できるのは約60〜65%
EU就労は制度上可能でも、現実的にはほぼ選べない
卒業できなければ、医師への道も他のキャリアも断たれる
私がとくに「海外医学部はお勧めしない」とはっきり申し上げたいのは、以下のような動機のケースです。
① 私立医学部に合格する自信がないから、という消極的な理由 「国内は難しそうだから海外で」という発想は、リスクを回避しているように見えて、実は最もリスクの高い選択です。国内の私立医学部に合格できる実力がなければ、6年間英語で高度な医学を学び、卒業試験を突破することはさらに困難です。
② なんとなく海外生活に憧れる、というレベルの動機 憧れは大切ですが、それだけで6年間の過酷なカリキュラムを乗り越えることはできません。海外への興味は、国内の医学部に入学してから、長期休暇を使って存分に叶えられます。実際、国内の医大生は夏休みや春休みを活用して海外を旅し、国際的な視野を広げている学生がたくさんいます。海外経験のために、わざわざ6年間・数千万円・キャリアリスクを背負う必要はありません。
これらのリスクを踏まえた上で、それでも海外医学部が自分の子どもに合っているのかどうか——「出口」から逆算して考えることが、正しい選択への第一歩です。
それでも海外医学部を検討できる、2つの条件
ここまで厳しいことを書いてきましたが、すべての人に海外医学部を否定したいわけではありません。
私が「検討の余地がある」と考えるのは、次の2つの条件が揃っている場合だけです。
条件① どんなに不合理でも、海外の大学を卒業したいという強い意志がある
損得勘定や消極的な理由ではなく、「海外の大学で学ぶこと自体に強い意味を感じている」という確固たる意志がある場合です。6年間の過酷なカリキュラム、言語の壁、日本とは異なる環境——それらすべてを承知の上で「それでも行きたい」という覚悟がなければ、途中で心が折れます。逆に言えば、その覚悟があるなら話は変わります。
条件② 帰国子女レベルの英語力がある
海外医学部の授業は英語で行われますが、求められるのは日常会話ではなく、医学の専門知識を英語で理解し、試験で答えられるレベルです。帰国子女レベルの英語力、すなわち英語で考え、議論し、複雑な内容を読みこなせる力がなければ、最初の数年で脱落するリスクが非常に高くなります。
この2つが揃って初めて、海外医学部は「選択肢のひとつ」として検討できます。どちらか一方でも欠けているなら、国内の医学部を目指すことを強くお勧めします。
本当にヨーロッパで医師として働きたい人はどうすればいいのか?
「将来は絶対にヨーロッパで医師として働きたい」という強い意志を持つ人に、有用なアドバイスをお伝えします。
それは、東京大学を目指すことです。
一見馬鹿げているかもしれませんが、これは事実です。
東大の医局には、海外の大学病院へ医師を派遣する仕組みがあり、実際にヨーロッパやアメリカの病院で勤務している東大医局出身の医師が一定数います。特に外科医は多いです。私は東大在学中にそういった海外経験のある先生の授業を受けていました。海外医学部という「入口」から海外就労を目指すより、国内トップの医局というルートの方が、はるかに現実的に海外で働く道が開けているのです。
「東大でないと医局に入れないのか」というご質問をいただくことがあります。答えはノーです。他大学を卒業した後に東大医局に入ることも可能です。ただし、同じ実力であれば東大卒の方が有利であることは事実です。
つまり、「海外で医師として働く」という目標から出口を逆算したとき、最も確実なルートのひとつは「国内の医学部——できれば東大——を目指し、医局を通じて海外へ」という道なのです。
海外医学部から海外就労を目指すルートと比較すると、その現実的な差は歴然としています。
最後に
「今まで色々な予備校を試したけど、全部ダメだった」「うちの子はどの予備校に行っても成績が上がらない。だから海外しかないのかもしれない」
そうお感じの方に、ぜひ一度レユシールにご相談ください。
レユシールは完全個別指導の医学部予備校です。これまでの予備校では結果が出なかった生徒さんが、個別指導によって国内の医学部合格を果たしてきた実績があります。
集団授業では、どうしても「平均的な生徒」に合わせたペースと内容になります。つまり、つまずいている場所が人と違う生徒、理解のスピードが独特な生徒は、どれだけ真面目に通っても成果が出にくい構造になっています。
個別指導であれば、お子さんがどこでつまずいているのか、何が原因で点数が伸びないのかを正確に把握し、その方だけの戦略で合格を目指すことができます。
「海外医学部しかないかもしれない」と諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。正しい方法で取り組めば、国内の医学部合格は必ずしも遠い話ではありません。
片山湧斗 医学部予備校レユシール 代表講師 東京大学理科三類(医学部)卒 公式HP:https://www.reussirlexamen.com
