君たちの音楽を世界に出せ——30年前には不可能だったことが今は誰でもできる
今のクリエイターたちへ
まず最初にこれだけ言わせてほしい。
君たちの音楽をどんどん世間に広めてほしい。
躊躇する必要はない。遠慮する必要もない。今この時代に音楽を作れるということが、どれだけ恵まれたことか。30年前を知っている人間として、心からそう思っている。
カセットテープを手で配っていた時代
40年くらい前の話をする。
当時、個人でCDを作ることすらできなかった。自分の音楽を誰かに聴いてもらいたいなら、カセットテープに録音してそれを手で配るしかなかった。
それが「音楽活動」だった。
音楽を生み出せたとしても、それを聴いてもらえる環境がなかった。「誰か」に認めてもらえないと、自分の音楽は世の中に広められなかった。
レコード会社のディレクターというフィルター
当時、クリエイターもアーティストも「レコード業界」に認知してもらうことが表に出る第一歩だった。
デモを作ってレコード会社に送る。レコード会社のディレクターの耳に留まってコンタクトが来る。そこからようやくスタートだった。
でもディレクターに声をかけられたからといってデビューが決まるわけじゃない。ディレクターの言うことを聞いて、ディレクターの好みに染まって、時には自分を殺して。そしてつかんだデビューの先にあったのは「売れなかった」という現実。
こうしてデビューを勝ち取ったクリエイターやアーティストたちでも、売れた人たちはほんの「ひとつまみ」。一握りにも満たない。
当時のレコード業界も産業としての生き残りに必死だった。血眼になって「実になる種」を探しまくっていた。実にならない種——デビューすらできないアーティスト——もいっぱいいたからね。
そして実った果実を丁寧に包装して飾り上げて、より高く・より多く売れそうなお店(レコード小売店)に置いてもらう。それが彼らディレクターの仕事だった。
だから世の中に出る音楽は「売れる音楽」じゃなきゃダメだった。
今は違う
でも今はそれを決めるのはレコード会社のディレクターじゃない。
YouTubeがある。TikTokがある。音楽配信だって個人レベルでできる。SNSを駆使すればかなりの人間に自分の音楽を聴いてもらえる。
売れるも売れないも世間次第。自分たちが自分たちで音楽を表に出せる。
サブスクとダウンロード販売が変えたもの
実はサブスクやダウンロード販売が世に出回った当時、僕は少し危惧していた。
「レコード会社のディレクターの耳」というフィルターを通らない音楽がダイレクトに世の中に氾濫していったとき、音楽シーンはどうなってしまうのか。クオリティーの低い音楽がはびこってしまうのではないか——そういった危惧だった。
でもふたを開けてみたら杞憂だった。
何物にもとらわれない。何のしがらみも持たない。そんな素敵な音楽が氾濫していた。嬉しかった。
もちろん今でも商業主義的な音楽シーンはある。でもそれと同じか、それよりも大きい渦の中で、自分自身を表現しているクリエイターたちが闊歩している。
それがたまらなく嬉しい。
SNSは諸刃の剣
ただ一つだけ伝えておきたいことがある。
SNSはある意味諸刃の剣だ。
人の評価を気にしないメンタルが大事だ。以前「アーティストの資格」として触れたけど、自分の世界観を貫く強さがなければSNSの評価に飲み込まれてしまう。
でも同時に、自分の音楽がどういう風に伝わっているか・どう感じてもらえたかを気にすることもすごく大事だ。
音楽は聴いてもらって初めて命が吹き込まれる。
売れることと聴いてもらえることは同義じゃない。まず聴いてもらうこと。それが最初の目標だ。
だから躊躇するな
30年前には不可能だったことが今は誰でもできる。
カセットテープを手で配っていた時代を知っている人間として、今のこの時代がどれだけ恵まれているかを伝えたかった。
君たちの音楽には価値がある。躊躇せず自分自身をどんどん表現してほしい。
世界はその音楽を待っている。
