11話 夫に伝えるしか道はなかった②
日頃、夫の帰宅は22時過ぎ。
その頃は期間限定で土日も夜に出かけることが多く、家にいる時間はほとんどありませんでした。
でも、その日は珍しく夜に予定がないようでした。
「話すなら、今日しかない。」
と思いました。
私はスマホを開き、ボイスレコーダーの録音ボタンを押しました。
事情があり、夫との大切な会話は録音するようにしていたからです。
夕食を終えたあと、寝室にいる夫の部屋をノックしました。
心臓が飛び出しそうでした。
深呼吸をして、ゆっくりと言葉を口にしました。
「話があります。
詐欺に遭いました。
消費者金融とカードローン、親から借りたお金を合わせて、850万円の借金を負うことになりました。
返済するために仕事を増やします。
11月から正社員になることも決まっています。
ごめんなさい。」
詐欺の詳しい経緯は話しませんでした。
聞いてもらえないと、分かっていたからです。
夫はしばらく黙っていました。
そして静かに言いました。
「金利がヤバい。
ちょっと相談する。」
夫は我が家のライフプランナーへ電話をかけました。
話を聞いたライフプランナーからは、
「加入している生命保険の貸付制度を使った方が金利は低い。まずはそのお金で返済した方がいい。」
と提案があったそうです。
夫はすぐに保険証券を探し始めました。
そして、私にこう言いました。
「もしかしたら返済のために子どもの貯蓄に手を出すかもしれないから、子どもにも話して。」
「保険の貸付を使って、まずは返して。」
少しだけ、安心したのも束の間でした。
続けて夫は言いました。
「俺は、どんなに困っても消費者金融には手を出さなかった。
お前は最低だ。」
そして最後に、
「返す見込みが半分立ったら、離婚してくれ。」
その言葉を聞いて、正直嬉しくもありました。
言いたいことは、たくさんありました。
でも、その日は言葉が出ませんでした。
いや、出さない方がいいと思いました。
借金を返すこと。
そのことで頭がいっぱいだったからです。
再生の一歩
あの日、私は人生でいちばん言いたくなかったことを、自分の口で伝えました。
逃げませんでした。
