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国際AIサミットに行ったのに時間がなかった僕が、AIに「代わりに聞いてきてもらった」話

サミットに「行った」のに、セッションに「出られない」というジレンマ

先月、私はインド・ニューデリーで開催された「India AI Impact Summit」に参加しました。

世界各国の政府関係者、大手テック企業、研究者が一堂に会する、AI分野では最大級の国際会議です。数日間にわたり、朝から晩までセッションが複数の会場で同時並行に行われます。

しかし、ここで正直に告白しなければなりません。

私は、ほとんどのセッションに出られませんでした

実は今回、私はサミットの本体プログラムとは別に、自分たちでサイドイベントを企画・運営する側でした。登壇者との調整、会場の設営、当日の進行——イベントのオーガナイズに奔走していると、同じ時間帯に行われている他のセッションには物理的に出られません。自分が関わるイベントを成功させることと、他のセッションから学ぶこと。その両立が、国際会議の永遠のジレンマです。

特に心残りだったのが、職場で自分が担当しているプロジェクトに関係する「Agentic AI」に関するセッション群です。

なぜ「Agentic AI」が気になるのか

少しだけ仕事の話をさせてください。

私は普段、AIをめぐる国際的なルール作りを支援する仕事をしています。具体的には、GPAI(Global Partnership on AI)という国際的な枠組みの東京センターに所属しています。GPAIは2024年にOECDと統合され、現在はOECDの一部として、AIに関する政策提言や実践的なプロジェクトを推進しています。そして今、この分野で最もホットなテーマの一つが「Agentic AI(エージェンティックAI)」——つまり、人間の指示を受けて「自律的に行動する」AIシステムです。

これまでのAIは、質問すれば答えてくれる「相談相手」のような存在でした。しかしAgentic AIは違います。「来週の出張の航空券を予約して、ホテルも押さえて、上司にスケジュール共有しておいて」と頼めば、実際にそれを全部やってくれる。便利な反面、「AIが勝手に判断して行動する」ことのリスクやルール整備が、世界中で急務になっているのです。

India AI Impact Summitのプログラムを見ると、このAgentic AIに関連するセッションが14本もありました。合計すれば14時間以上。仮にすべてに出席できたとしても、内容を整理して他の人に共有するには相当な時間がかかります。

ただし、一つ救いがありました。このサミットでは、ほとんどのセッションがYouTubeでライブ配信され、アーカイブ動画としてサミットの公式ウェブサイト上で公開されているのです。つまり、会場にいなくても、後から動画で内容を確認できる。問題は、それを全部見る時間をどう確保するか、でした。

そこで私は、今回も「AIに手伝ってもらう」ことにしました。

Claude Codeで「関連セッション」を自動特定

まず取り組んだのは、サミット全体のプログラムからAgentic AI関連のセッションだけを抜き出す作業です。

India AI Impactサミットのプログラムには数百のセッションが掲載されています。この中からAgentic AIに関連するものを手作業で探すのは手間です。

そこで、前回の記事でも紹介したClaude Code(Anthropic社のAIコーディングツール)に、サミットのプログラムページを読み込ませ、「タイトルや概要に"agentic"、"agent"、"multi-agent"などの用語を含むセッションを抽出して」と指示しました。(ちなみに、自律的にプログラムを書き、実行、修正を繰り返すClaude Codeは前述のAgentic AIの典型例です。)

結果、14セッションがリストアップされ、それぞれの日時、会場、YouTubeライブ配信のURLまでCSVファイルに整理されました。

NotebookLMで「14セッション分の要約」を一気に生成

次のステップが、今回の実験の核心です。

14セッションのうち、YouTube動画が公開されていたのは13本。しかし、13本の動画を全部見るには13時間以上かかります。

ここで登場するのが、GoogleのNotebookLMです。NotebookLMは、動画や文書を読み込ませると、その内容を構造化して要約してくれるAIツールです。要約だけでなく、音声解説、マインドマップ、インフォグラフィック、スライド資料、フラッシュカードやクイズまで作ってくれます。

Claude Codeに「CSVに記載された各YouTubeのURLをNotebookLMに送り、それぞれの要約を自動取得するアプリケーションを作って」と依頼しました。少し試行錯誤はありましたが、最終的にはURLを渡すだけでNotebookLMが各セッションの要約を生成し、結果がスプレッドシートにまとまる仕組みが完成しました。

ローカルでしか動きませんが、Claude Codeはこんないい感じのユーザーインターフェースも数分で作ってくれます。

処理時間は1セッションあたり平均約21秒。13セッション分の要約が、合計5分足らずで手元に届くシステムが構築できました。

13時間分の動画が、5分で要約に。

もちろん、一個ずつ動画のURLをコピペしてNotebookLMに読ませてもいいのですが、相当な手間になります。自分は今後こういう作業をたくさんすることになりそうなので、こういうシステムを構築しておくことの意義は大きいのです。

もちろん、要約は動画の代替にはなりません。ニュアンスや会場の空気感は失われますし、要約の精度にも限界はあります。しかし、「何が議論されたのかの全体像をまず掴む」という目的には、十分すぎるほどの成果でした。

一覧:サミットで語られたAgentic AI — 14セッションの全体像

以下が、AIの力を借りて整理した14セッションの一覧です。上記の結果をClaudeに読ませたのですが、ご丁寧にテーマ別に分類までしてくれました(笑)。

浮かび上がった5つの論点:サミットが示すAgentic AIの現在地

13セッション分の要約を横断して読むと、議論の輪郭が見えてきます。特に面白そうだと思ったセッションは音声解説やマインドマップを作って詳細を把握、本当に意味があると思ったら実際の動画を二倍速で見ました。ここからは、私なりの総括を試みます。

1. 「人間が毎回承認する」モデルの限界

ほぼ全てのセッションで、「Human-in-the-Loop(人間が判断に関与する仕組み)」が言及されていました。しかし興味深いのは、この概念自体が進化を迫られていることです。

あるセッションでは、航空業界やドローン規制からの類推として、パイロットが操縦桿の一つ一つの操作を承認しないのと同様に、AIエージェントの行動を毎回人間が承認するのは非現実的だという議論がありました。代わりに提唱されていたのが「Human-in-Command」——人間は個々の判断ではなく、全体の方向性と例外時の介入に集中するという考え方です。

これは私自身の体験とも重なります。前回の記事で紹介した、Claude Codeとの共同作業。AIが提案する方針に「うん、それでお願い」と答えていましたが、とっても時間がかかりました。とてもじゃないですが複雑な意思決定の際に全部承認していくことはできないでしょう。何を人間が判断して、何をAIに判断させるのか、その見極めが今後は重要になっていくのかもしれません。

2. ガバナンスは「後付け」ではなく「設計の一部」へ

「Safety by Design」「Assurance by Design」「Governance as First Principle」——表現は様々でしたが、ほぼ全てのセッションで共有されていたのは、「安全性やガバナンスは製品が完成した後に付け足すものではなく、設計段階から組み込むべきだ」という認識でした。

ある登壇者は、これを5つの層(構築時→デプロイ時→実行時→修復→説明責任)からなる「ガバナンス・スタック」として体系化していました。AIエージェントのライフサイクル全体をカバーする発想は、まだ初期段階ではありますが、今後の国際的な議論の土台になりうるものです。

3. 「画一的な基準」は通用しない——Global Southからの声

インド開催のサミットならではの特徴として、欧米発の基準をそのまま世界に適用することへの明確な異議が、複数のセッションから上がっていました。

多言語環境(インドだけで数百の言語)、インフラの制約、都市部と農村部の格差——こうした文脈を無視した「ワンサイズ・フィッツ・オール」のアプローチは機能しないという主張です。都市向けに設計されたAIサービスが農村部ではまったく機能しなかった具体的な事例も共有されていました。

この論点は、AI標準の国際的なハーモナイゼーション(調和)を進める上で避けて通れない課題であり、私自身の仕事にも直結しています。

4. 「Know Your Agent」——エージェント時代の信頼基盤

商取引をAIエージェントが代行する「Agentic Commerce」のセッションでは、導入企業のコンバージョン率が7〜9倍に跳ね上がったという報告とともに、「Know Your Agent(あなたのエージェントを知れ)」という概念が提唱されていました。

金融分野の「KYC(Know Your Customer=顧客確認)」になぞらえたこのコンセプトは、AIエージェントの本人確認(暗号的ID)、権限設定、行動の来歴追跡という3つの柱で構成されています。エージェントが人間の代理として経済活動を行う時代に、「このエージェントは信頼できるのか」を検証する仕組みは、いずれ国際的なルールの中核になるかもしれません。

5. 国際協調の「場」としてのOECD

複数のセッション、特に米国政府関係者やインド政府関係者が参加したラウンドテーブルでは、AIガバナンスの国際協調における中核的な枠組みとしてOECDが繰り返し言及されていました。G7の広島AIプロセスやITUの「AI for Good」とともに、実務レベルの基準策定を担う場としての役割が期待されています。

各国・各地域が独自の基準を作りつつも、相互運用性を確保するために国際的なベンチマークと整合させる——この「グローカル」なアプローチが、今後のAgentic AIガバナンスの基本路線になりそうです。サミットの議論を聞きながら、自分が所属するGPAI/OECDがまさにその交差点に位置していることを改めて実感しました。

おわりに:「聞けなかった」を「聞いてもらう」時代

振り返ると、今回の体験はちょっとした皮肉を含んでいます。

「AIの国際ルール」を議論するサミットのセッションを、「AI」に代わりに聞いてもらい、要約してもらった。そしてその結果を、「AIの国際ルール作り」を支援する自分の仕事に活かそうとしている。

AIについての議論を、AIの力を借りて理解する——もし数年前の自分がこの話を聞いたら、何かの冗談だと思ったかもしれません。

もちろん、限界はあります。動画の要約は、登壇者の表情や会場の反応、質疑応答の微妙な温度感までは伝えてくれません。要約の精度も完璧ではなく、重要なニュアンスが落ちている可能性は常にあります。またこの手の国際会議ではどのような背景の人物が何を言ったかが重要だったりするのですが、少なくとも要約だけではそれは十分に拾えません。

それでも、13時間分の議論の全体像をこの作業で把握できたことは、私の仕事を確実に前に進めてくれました。

「AIが人間の仕事を奪う」という議論がよくありますが、私の実感はむしろ逆です。AIは、一人の人間が吸収できる情報の量と速度を大幅に引き上げてくれる。それは脅威ではなく、今まで手が届かなかったところに手が届くようになる感覚です。

次回のサミットでは、もう少しセッションにも出たいと思いますが——もし出られなくても、心強い「代理出席者」がいることは、もう知っています。


本記事で使用したツール:Claude Code(Anthropic)、NotebookLM(Google)、Claude Cowork(Anthropic)

なお、この時に作った自動化ツールは「notebooklm-auto」としてGitHubで公開しています。設定には若干時間がかかるかもしれませんが、ご自身のPCで実行できるようにセットアップできると思います。YouTubeのURLリストを渡すだけで、NotebookLMのノートブック作成・要約生成・共有リンク取得を一括で行えます。興味のある方はぜひ試してみてください。 https://github.com/s00048ri/notebooklm-auto

India AI Impact Summitの各セッション動画はYouTubeで公開されています。関心のあるセッションはぜひ直接ご覧ください。

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