「三つのアメリカ留学ルート」考
「もしアメリカで大学進学をするなら、フィラデルフィアで過ごしてみたい。」そんなお話に触発され、思うままにこのブログを書いてみました。
私は大学関係者ではありませんが、アメリカの大学(学部・大学院)の経験者であり、フィラデルフィア都市圏に30年以上暮らしてきた一人として、現地の実感をもとに、少しでもご参考になれば幸いです。
私自身の留学経験
私は日本の高校を卒業し、一般的な英語教育を受けてきました。英語は比較的得意科目で、TOEFLのスコアも決して悪くはありませんでした。
しかし、実際に進学したアメリカの州立総合大学(University)での4年間は、極めて厳しいものでした。私の専攻では、1年生が200名以上在籍していましたが、卒業できたのは40名程度。大学側も明確に「ふるいにかける」構造になっており、学生同士の競争は非常に激しいものでした。協調よりも競争が優先され、教授も手厚く指導してくれた記憶はありません。
TOEFLのスコアが高くても、授業の進行スピードや求められる理解の深さについていくのは容易ではありませんでした。語学力だけでは乗り越えられない壁がある、というのが実感でした。
【選択1】大学院から
こうした背景から、「アメリカ留学は大学院からのほうが良い」という意見も一定の説得力があります。大学院では専門分野が明確で、Research Assistant や Teaching Assistant として教授と関わる機会も多く、指導も学部課程と比較して丁寧になる傾向があります。また、日本の大学で基礎を固めてから渡米するという、大学院からのアメリカ留学は合理的な選択と言えるでしょう。
【選択2】リベラルアーツ・カレッジ
一方で、見落とされがちな選択肢として「Liberal Arts College(リベラルアーツ・カレッジ、以下 College と呼ぶ)」があります。これは総合大学である University とは異なるカテゴリーに属する高等教育機関で、規模が小さく、学部教育に特化していることが特徴です。
優れた College は入学難易度が非常に高く、場合によっては著名な University 以上に狭き門となることもあります。教授と学生の距離が近く、少人数教育が徹底されています。結果として、学生一人ひとりへのサポートが手厚く、卒業率も比較的高い傾向にあります。
こうした College の卒業生は、その後、大学院で専門分野を深めるために University へ進学するケースが多く見られます。分かりやすい例としては、ヒラリー・クリントン氏が Wellesley College で学士号を取得した後、Yale University のロースクール(法科大学院)へ進学したことが挙げられます。
こうした点を踏まえると、もし学部からアメリカ留学を目指すのであれば、リベラルアーツ・カレッジは有力な選択肢と言えるでしょう。
学費という現実
ただし、これらのリベラルアーツ・カレッジは、学費が安くありません。奨学金を得られれば現実的な選択肢になりますが、それが難しい場合には、経済的な負担は大きいと言わざるを得ません。
【選択3】テンプル大学日本校(TUJ)
そこで、もう一つの現実的な選択肢としてご紹介したいのが、フィラデルフィアにメインキャンパスを持つ Temple University の日本校です。Temple University, Japan Campus = 以下 TUJ と略します。
TUJ の特徴は、まず第一に、その学位が本校と同一である点にあります。卒業証書に「日本校」といった区別は記載されず、フィラデルフィア本校で取得した学位との違いはありません。また、アメリカ本土の大学と同じアクレディテーション(認証)を受けており、日本に所在しながらも、制度的には完全に「アメリカの University」です。
それでいて、学費は日本の私立大学と同等の水準に抑えられています。さらに、希望すれば最終学年をフィラデルフィアの Temple University のメインキャンパスで履修することも可能であり、その際も TUJ の学費水準が適用されるという。費用と得られるメリットのバランスという観点から見ると、なかなか興味深い仕組みだと感じています。
多様な学生と将来のネットワーク
TUJ には、日本在住の学生に加えて、アメリカ本土からの学生はもちろん、さらにはアジア各国からの留学生も多く在籍しています。「アメリカの正式な大学の学位は取得させたいが、高校卒業直後にいきなりアメリカ本土へ送り出すのは不安だ」と考えるアジア諸国の親御さんにとって、日本でアメリカ型教育による学士課程を修了したうえで、その後にアメリカ本土の大学院へと段階的に進ませることができる点は、大きな安心材料となっていると伺っています。
そして、こうして育った多くのアジア系の学生は、その後アメリカの大学院へ進学し、さらにそのままアメリカに残ってキャリアを築いていきます。場合によっては、アメリカ国籍を取得するケースも珍しくありません。
アメリカ国籍の学生はもちろん、他国籍の学生たちも、日本で4年間を過ごし、日本社会や文化を深く理解したうえでアメリカ本土に根を下ろし、「日本をよく知る幅広いアメリカ人」になっていきます。こうした人々と学生時代に出会い、長期的な信頼関係を築けることは、TUJ ならではの大きな魅力ではないかと思います。
大学院進学へのアドバンテージ
TUJ は、アメリカの州立総合大学に属しながらも、リベラルアーツ型の教育を採用しており、少人数制のディスカッションを中心とした授業が特徴です。そのため、アメリカ本土の University でよくみられる、大教室での一方向的な講義形式とは異なります。
英語が得意ではない学生向けにはアカデミック・イングリッシュ・プログラムが用意されており、「課題の説明が丁寧」「サポートが手厚い」といった見学記・体験記もあります。一方で、アメリカ本土の大学と同等の勉強量が求められるのは間違いないでしょう。
いずれにせよ、日本にいながら英語による講義や課題に日常的に取り組むことで、アカデミックな英語力と学習スタイルに十分に慣れることができます。その状態で本土へ進学すれば、よりスムーズに適応できるでしょう。
どの道を選ぶか
このように、アメリカ留学には一つの正解があるわけではなく、いくつかの現実的なルートが存在しています。最初から本土の大学に挑戦する道、小人数教育を受ける道、あるいは日本にいながらアメリカの大学教育を受け、その後にアメリカ本土の大学院へ進む道。それぞれに利点と課題がありそうですね。
大切なのは、「どの道が優れているか」ではなく、「どの道が自分に合っているか」という視点ではないでしょうか。
フィラデルフィアという選択
フィラデルフィア都市圏は、いろいろな選択肢にアクセスしやすい、いわばハブのような場所かな、と個人的には思っています。多数の University と College を擁し、30万を超える大学生人口を抱える、全米有数の学術・芸術都市圏です。
University には、アイビーリーグの一角を占める University of Pennsylvania をはじめ、Temple University、Villanova University、Drexel University、 Thomas Jefferson University、West Chester University、La Salle University、Saint Joseph's University などが有ります。
College には、津田梅子の留学先として知られる Bryn Mawr College をはじめ、Haverford College、Swarthmore College など、歴史と特色あるリベラルアーツ・カレッジが並ぶだけでなく、全米でも高い評価とランキングを誇り、入学難易度も非常に高いことで知られています。
フィラデルフィアは、アメリカで初めて都市全体がまるごと世界遺産に登録された「世界遺産都市」であり、北米三大日本庭園の一つである「松風荘」を有し、同時に世界有数のオーケストラ「フィラデルフィア管弦楽団」、「フィラデルフィア美術館」、「バーンズ・コレクション」など芸術と文芸の薫り高い文化都市としても広く知られています。さらに、日本、特に天皇家とのゆかりも深いこの街は、他では得難い独自性に富んだ留学体験をもたらす可能性を秘めていますと思います。
もし将来アメリカで学ぶことをお考えであれば、フィラデルフィアを一つの拠点として思い描いてみるのは、意義のある選択肢かもしれません。
参考記事のリンク:
・TUJ見学記・体験記:https://business.swu.ac.jp/blog/2023/02/12113.html
・フィラデルフィアの大学生人口:https://en.wikipedia.org/wiki/Education_in_Philadelphia
・世界遺産都市:https://www.nyseikatsu.com/featured-article/07/2024/41377/
・松風荘:https://www.nyseikatsu.com/featured-article/07/2024/41485/
・芸術と文芸:https://www.nyseikatsu.com/featured-article/05/2024/41127/
・フィラデルフィア管弦楽団+日本、天皇家とのゆかり:https://youtu.be/cbJilgmS7JE
・バーンズ・コレクション:https://jt-art-office.com/write_02_tosei.html
・フィラデルフィア美術館:https://chico-travel.com/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8%E3%81%AE%E8%A6%8B%E3%81%A9%E3%81%93%E3%82%8D/
筆者の紹介
日米欧での企業勤務を経て2005年に起業。日米に加え台湾の強みを融合し、ArtとTechの共創によるイノベーションで実績を重ねてきた事業を経営。
主な公職:
・ペンシルベニア州知事アジア太平洋諮問委員会 コミッショナー
・フィラデルフィア管弦楽団 公式親善大使
・アジア系フィラデルフィア商工会 理事
・フィラデルフィア日米協会 副理事長
