夏の夜の話
猛暑の夏に涼をとるには、幽霊の話をするのがいいーなどというと笑われるかもしれない。
科学の時代にお化けの話を持ち出す愚かしさを知りつつも、どういうわけか、夏の夜には怪談がふさわしい。
怪談の話し手は芸人がいい。時として声色を取り入れ、薄気味悪い微笑を浮かべたり、不意に黒目を白目に変えてみるといった芸を披露しながら話を進めていけば、周りの空気もヒヤッとしてくるのである
聞き手も相槌を打ちながら、恐ろしい表情を随時してみせればなお盛り上がる。
小学生の時、近所に昔ながらの蔵を持つ家があった。その蔵の持ち主の息子さんが、近くの子どもを蔵の中に集めて、おばけの話をしてくれたことがある。暑い、暑い夏の年だった。
私は生意気な子どもだったので、その中にあって、ひとりシラケてそっぽをむいて聞いていた。
話が中盤までたどりついた時、鈴の音が不気味にどこからともなく鳴り響いた。数人の子どもが泣き出した。
舞台効果は成功したかに見えたが、あの時の私の態度が悪かった。だれかが隠れて鈴を鳴らしているはずだと言い張り、物陰を探し回った結果、話し手の妹を見つけ出したからである。
この残念な行動で、会場の雰囲気を台無しにしてしまったのだ。
年月を経て、私も話す側になった。
ある時、近所の小、中学生数人相手に、不思議な体験をしたことがあるかと質問してみた。座っているだけで汗がにじみ出てくる夜だった。
三人があると答え、その体験談を話してもらった。その後、私が昔聞きかじっていたこわい話をしゃべり出した。まもなく耳を両手で抑え込む子どもを見てしめしめと目を細めた。
こうではなくてはいけないと内心満足した。やがて話の内容が怖さのピークに差し掛かったとき、リリーンと電話のベルが鳴り響いた。とっさにギャァーと叫び声を上げたのは私だった。
どうやら私は話す側も聞く側も不向きらしい。その夜は冷や汗をかいて眠りについたのであった。
