夫婦茶碗は割れない
長年、食卓で寄り添ってきた
夫婦茶碗のうち、
ある朝、夫の茶碗だけに細いひびが
入っているのを見つけた。
光にかざすと、まるで茶碗自身が
ため息をついたかのように、
その “ ひび ” は静かに、
しかし確かにそこにあった。
「……これは、何かの予兆」
私は思わず茶碗に問いかける。
いや、正確には、
茶碗の向こう側にいる夫に
問いかけていたのかもしれない。
最近の私を振り返る。
「ねぇ、ママ」と呼ばれるたびに、
つい嫌な顔をして「なに?」と返して
しまっていた。
「明日のパンある?」と聞かれたときも、
夫のパンを何にするか迷った末、
結局買い忘れてしまった。
そういえば、
「ちょっと距離近いから離れて」と
言ったこともあった。
そんな小さな出来事たちが、
茶碗の時の流れとともに積み重なり、
ひびとして姿を現したのだろうか。
——そんなことを考えていた矢先のことだ。
冬になって、肌が乾燥するのか、
夫の太ももの炎症がひどくなった。
そこで、隣の義実家から、
炎症止めのクリームをもらってきたらしい。
「何のクリームもらってきたの?」
「ロキソニンクリーム。」
「え、ロキソニン?」
「うん、たしかロキソニンのクリーム。」
「肌荒れなのにロキソニン?」
「うん、ロキソニン。そう言ってたと思う。」
「へ〜、ロキソニン……」
(腰痛じゃないのにロキソニン……)
私の独り言は、どうやら聞こえていたらしい。
「ロキソニンだったと思うよ。
もう、わかんない!」
少しキレ気味の夫。
「あ、もしかして、
ステロイドクリームのこと?」
「あっっ!それだ!」
「——いま、俺のこと馬鹿にしたでしょ?」
「いやいや、馬鹿になんかしてないよ。
純粋に心配になっただけ。
肌荒れにロキソニンクリームは違うと
思ったから…」
夫はぽつりと言った。
「——寄り添って。」
その瞬間、私は悟った。
あ、夫の茶碗は劣化だわ。
今まで連れ添った青い茶碗は、
丁寧に紙に包み、お別れすることにした。
夫婦茶碗はそう簡単には割れない。


【あとがき】
今回は、私がnoteを始めるきっかけをくださった波流人さんから、お題「夫婦茶碗は割れない」を頂き、それにお応えしてみました♫
波流人さんは、小説をはじめ、とても素敵な作品を書かれている方です。
ご興味のある方は、ぜひ覗きに行かれてみてください。
本を読まない私に、言葉と文章の魅力を教えてくださった大切な方です。
あ、念のためお伝えしておきますが——
お題のために茶碗にひびを入れたわけではございませんwww
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
もし共感していただけたり、少しでも笑っていただけたら、いいねやコメントでお知らせいただけると嬉しいです。
今日の記録が、誰かの一日のちょっとした息抜きになれば幸いです。
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